第230話 こっちも見てよ(ロマンシス。クソデカ感情の一方通行)

「ぐぬぬぬ……っ」

「どしたー?」

 昼休み。

 教室の喧騒の片隅で、友人がスマホを人○しの目で凝視している。

 ちなみにご飯後なので、飢餓状態の苛立ちというわけではない。

「べっつにー?」

「あ、わかった。高島さん、また大会出ないんだ?」

 ビンゴだったのか、彼女はキッとこちらを睨んだ。

「アイツが大会出ないことくらい、何でもないし!?」

「やっぱり、高島さんなんだねー」

 高島百合。

 小学校のときの、私たちの同級生だ。

 そして、陸上競技における私たちの代のスター選手でもあった。

 今は、すっかり足を洗い(陸上部自体に所属はしているそうだから、厳密に言えば足を洗ってはいないんだけど。何でも、大会に出なくていいグループに入っているとか何とか)、今や過去の人だ。

「暇だったから、ちょっとメッセで確認しただけ! 『先輩たちの応援に行くから、会えたらいいね~』だって。ふざけてんの!?」

 私の友人を除いて。

 ずっと高島さんに勝つことを目指していたこの子にとっては、勝ち逃げされたみたいで悔しいのだろう。

 大会のたびにメッセでこうして確認を取る。

「何か、ずっと片想いしてるみたいでウケる」

「はあ!? 何で私がアイツに片想いしなきゃいけないの!」

 アイツのことなんてぜんっぜん興味ないし!

 と言いつつ、恨めし気にメッセを見ている。

 まったく。

 素直じゃないのに、わかりやすいというか。

「……」

 キャッキャと騒ぐ明るい昼休みの喧騒の中。

 むう、と眉を顰める友人を、頬杖ついて見ながら。

「……アタシだって、アンタのために陸上入ったんだけどなー」

 何処にも届かない呟きを零す。

「? 何か言った?」

「うーうん。部活かったるいなって思っただけ」

「ちょっと。大会近いんだから、だらけないでよ。走り幅跳びは、アンタにかかってんのよ? どの種目でも優勝掻っ攫うのが、うちの目標なんだから」

 やっとちゃんとこっちを見た彼女に、

「もちろん」

 私はニッと笑いかけた。

「必ずや勝利をあなたの手に……ってね」

「キザ」

「ふふん。いいでしょ」

 あなたを夢中にさせることは出来ないけど。

 ずっと傍にいることは、忘れないでよね。

 私は、笑いながら彼女の肩をポンッと叩いた。


 END.


 高島さんはこちらの(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139554902375225)人です。

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