第223話 わかってるのよ(片想い百合。女子高生)

「恋に恋してるだけか」

「あんまりそういうの、そこかしこで言うなー?」

「危ない奴に、引っかかっちゃうからさ」


 彼女の仕方なさそうな笑みを見て、私は頬を膨らませた。

 それからすぐに、「ひどいなー」と笑ってみせる。

 まったく、彼女と来たら、わかってない。

 恋に恋してる?

 そこかしこで言う?

 なーんでそうなるかな。

 私が好きなのは、ずっと彼女だけなのに。

「ひどくないよ」

 ぽんぽんと優しく撫でられる頭が熱い。

 私を見つめる眼差しの、慈愛のこもった感じとか、本当に好き。

 ちょっと目を細めてさ。猫とか、ちっちゃい子を見つめるときみたいなさ。

 そんな視線。

 それよりは、もう少し親しみも込められてて。

 自分が見てなくちゃな、という責任感もじんわり滲んでいる。

 この視線にさらされ続けて、惚れない人間なんて居ないんじゃないのと、つい思ってしまう。

「そういうそっちはどうなのさ」

「あー……」

 彼女はぽりぽりと首筋を掻いて、苦笑した。

「私はそういうのいいかなあって思ってる」

「ふぅん」

 それは、どういうことだろう。

 恋愛自体に興味が無いという意味なのか。

 私にまつわるあれそれで、恋愛が嫌になったのか。

 それとも。

 ──そう。私は気付いている。

 誰かの私に向けられている異様な執着とか、恋愛に見せかけた自己顕示欲とか。そういうの。

 けれど、こっちが気付いているって向こうに気付かれたら、それこそ地縛霊が自分のことを視える人にしつこく助けを求めるように、もっと厄介なことになるに違いないって本能的に察したから。

 私は無邪気さを装って、ソウイウ輩たちの気持ちをはねのけて来た。

 ……って言っても、彼女や他の友人たちの助けが無ければ無事では済まなかったかも、というのもわかっている。

 そんな風にいつも助けてくれてるってところもまた惚れちゃうポイントなんだけど、とにかく。

 恋愛にまつわる嫌な感情を間近で見ちゃっているから、もしかして嫌になっちゃったかなあと、この頃はちょっと心配している。

 下手な男とかに流れないのは良いのかも知れないけど。

 こっちまで見てくれないのは、困る。

「……手一杯いっぱいだから、ね」

「それ、は──」

 そう言って、彼女は私を見て微笑んだ。

 仕方なさそうな、それでいて、ちょっと得意げなような。

 もしかして、そのいっぱいいっぱいの内容は。

「そろそろ晩ごはん行く? 今なら空いてるよ」

 彼女が立ち上がる。

 私も慌てて立ち上がる。

「待ってよ」

 彼女の手を取って並ぶ。

「アンタ、ほんと甘えただねぇ」

「甘えたじゃないし!」

 彼女の頭がいっぱいいっぱいなのが、私のせいだったなら。

 ……しばらくは、恋愛がどうとか、そういうことは置いといてもいいのかも知れない。

 私は、繋いだ手を振りながら、「今日の晩ご飯何かなー」ついはしゃいでしまった。

 横で、彼女が楽しそうに「そろそろ唐揚げくるんんじゃない」と笑ってくれた。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139554524285566)の逆サイド。


 

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