第211話 夕焼け色が、目に沁みる(色んな意味で両片想い。女性二人)
夕暮れ時のカフェは、けっこう人が居る。
買い物などの用事を済ませた人たちが、一時の休憩とお喋りのために立ち寄るせいか。
大きな窓から見えるのは、立派な夕焼け。ビルの上階にあるカフェだから、しっかり見えた。
オレンジ色の雲と、薄青、薄紫の空。そのコントラストの美しさ。
私はそれを横目に、友だちとの会話の流れを『操作』する。
「……どっちか、好きだったりした?」
「んー……どうだろ、憧れはあったけど。綺麗な絵画を見るような。けど、恋とか嫉妬とか、そういうのではなかった気がするなあ。あんまりそう言う意味で憧れた人って思えばいないかも」
「そっか」
「うん」
さらに何か聞きたげな友だちの言葉を遮るように「ところでさ」と私は話し始めた。
『恋愛』とは何一つ関係ない、
「このあいだ言ってた新しいパン屋って、もう行った?」
そんな話題。
「確か、地下街に出来たとかいう?」
「そうそれそれ。名前は、何てったっけ?」
質問をされれば、君は答えなくちゃいけない。
そしてその答えから話は新しい流れになっていく。
元の話題には戻れないくらい、遠くに流れる流れ。
(めでたくてつい話しちゃったけど、危なかったな)
目の前で、もう新しいパン屋の話をしている友だちを見ながら、私はこっそり安堵の息を吐いた。
……私は、誰とも恋愛しない。恋愛感情が無い。
だから、誰かから恋愛感情を告げられたら、困ってしまう。
それが男だろうと、女だろうと、誰であろうと。
せっかく、友だちになれたのに。
その人たちは、『お断り』すると、私から離れていってしまう。
大好きなのに。同じ『大好き』では無いから離れるしか無いなんて、なんて寂しいことだろう。
(……そういう意味では、本当に『両想い』って難しいんだな)
友だち同士だって結局『両想い』じゃないと上手くいかない。
それなら。
「じゃ、このあとそのパン屋行ってみよっか」
「いいね」
少しでも長く、はぐらかし続けて、うやむやにしたい。
『両想い』じゃないことをはっきりさせて、『お別れ』になんてまださせない。
「あ、見て。夕焼け、めっちゃ綺麗」
パン屋へ行こうと席を立ったとき、彼女が窓の外に気が付いて声を上げた。
私はとっくに気付いていたそれに今初めて気が付いたみたいな顔で、
「ホントだ! すっごい綺麗」
笑った。
今日の夕陽は目に沁みる。
END.
こちらの(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927862807712188)逆サイド側。
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