第166話 今日のラッキーアイテムは(同棲百合)


『ごめんなさい、最下位はみずがめ座。突然のアクシデントに右往左往…。ラッキーアイテムは、花柄の傘!』


 ラッキーアイテムがあれば、最下位の運気も上がる。

 うん。まったくいい考えだ。

 どんなに運が悪くても、自分の行い一つで上向きに出来るって考え方は好きだ。

 けれど。

「そのラッキーアイテムを忘れてちゃあ、世話ないんだよなあ……」

 改札を出て、ぼんやりと外を見た。

 外は、土砂降りの雨。

 天気予報では、晴れのち曇り時々雨。

 夕方以降降るかもしれない、と用心して、ついでにラッキーアイテムだし、と思って、しっかり玄関に待機させていた花柄の傘。

 だが、最下位の運気というのは恐ろしいもので、せっかく玄関の取っ手にかけていた傘を、開けるのに邪魔だからと脇にのけて、そのまま置いて出て行ってしまったのだ。

「はー……」

 傘を買って増やすのもダルい。

 かと言って、タクシーを使うのもキツい。並んでいるし。

「仕方ないなあ」

 明日は土曜日。

 家は徒歩五分。

 走って帰って、速攻お風呂で、スーツは洗濯機(洗えるやつだ)。

 それで行こう。行くしかない。

 おし、と気合を入れたときだった。

「あーちゃぁん」

 気の抜けた声がした。

 花柄の傘が、歩いてくる。

「良かったあ、間に合った」

「エッコ……」

 一緒に暮らしている恋人の笑顔が、傘の下から現れた。

「今朝、傘忘れてったでしょう? ごめんね、気付いたのが夕方で。それなら、もう迎えに行っちゃおうって思って」

 エッコが、のんびり言った。

 エッコは在宅ワークだから、下手すると玄関の方なんて一日見ないで過ごすこともある。

 今日は玄関掃除の日でも無いから、その確率の方が高かった。

「LINEすれば良かったねぇ。今、出て行こうとしてでしょ?」

「うん」

「あはは、本当に間に合って良かったよ~」

 じゃ、帰ろっか?

 エッコが言って、傘の半分を指し示す。

「相合傘かい」

「いいじゃない。すぐそこだし。帰ったら、あったかいお茶飲もうねぇ」

 低い運気は、己の力で上げるもの。

 それはとても素敵な考え方。

 けれど。

 こうしてたまに、向こうからラッキーアイテムが来てくれることも、ある。

 それもまた、いいことだと思う私は、現金だろうか。


 END.

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