第115話 檸檬味(百合)


 夕暮れの教室。

 向かいに座っている麻衣が、ふと本から顔を上げて言った。

「飴玉を口移しするのってあるじゃん?」

 かろん、ころん

 私は、口の中で飴玉を転がしながら、首を傾げた。

「あるじゃんって言われてもねぇ」

「小説とか、漫画でだよ」

「うーん、意外と私はそのシチュ見てないなあ」

「とにかく、あるんだよ」

「はいはい、それが?」

 から、ころん

 飴は、檸檬味。ほどよい甘みと酸味が、癖になる。

「あれって、マジで出来るのかな?」

「ふむ?」

「だって、何か落ちそうじゃない? 途中で」

「ふぅむ」

 かろ、ころ

 飴玉は最初、それなりに大きかった。口を大きく開けなければ、放り込めないほど。

 けれど今はかなり小さくなって、普通の飴玉くらい。いや、もうちょっと小さいかも。

「よし」

「え?」

 私は、彼女の頬に手を添え、顔を寄せた。

 そして。

 ちゅ、と唇と唇が合う。相手の唇をぺろりと舐めて、ノック。開かせてから、こちらの舌を侵入させて。

 ……ちゅる、ころん、ちう

「……出来たね」

「!?」

 麻衣の顔をのぞき込むと、案の定、顔を真っ赤にしていた。

 耳まで真っ赤。よく見ると首も、かな。

 なんて可愛い。

「な、なっ」

「意外と落ちないもんだ」

「初ちゅーだったんですけど!?」

「奇遇だねぇ、私もだよ」

 初めての割には、良く出来た。

 たぶん、こうして、こうかなーくらいだったけど、出来るもんだ。

「ふ、普通、恋人同士でやるもんでしょーが!?」

「恋人になってくれたらいいなあって、脈有りそうだなあって相手にならしてもいいと思わない?」

「!!」

 私は鞄を開けて、また、飴玉を取り出した。

 ぽい、と口の中に放り込む。檸檬の香りが、ふわっと広がる。

 から、ころん

「……ね、どう思う?」

「……いいんじゃない」

 麻衣が、顔を赤くしたまま俯いて言った。

「そりゃあ、良かった」

 私がそう言って笑うと、飴も美味しいしムカつく、という謎の悪態をつかれた。

 けれど、そんな姿も可愛くて、私はもう一度キスしてみようかと少し迷う。


 END.

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