第116話 告白するだけでもえらいと思うよ(片想い。男女。百合)
私は、何をしているんだろう……と遠い目になりながら思う。
放課後の教室。その片隅で。
幼馴染が、頭を捻ってうんうん唸っている。
本日の議題は、
「王様ゲームで告るってのはどうかな?」
『告白』。
この人見知り全開、内気百パーセントの男が、いっちょ前に恋をしたという。
相手は、私の親友。
口下手の自分でもどうにか告白出来るように助けてくれ、というのが今回の『一生のお願い』だ。
ちなみに、報酬はコンビニパフェ。
学生の私たちには、ちょっとお高いスイーツだが遠慮なく頂いた。
「くじ運の悪いアンタが王様を引けるとは思わない」
「じゃ、じゃあ電光板で……」
「あの恥ずかしがりがそれを喜ぶと思うか?」
私の親友も、こいつとどっこいどっこいの恥ずかしがり屋の人見知りだ。
「むしろむちゃくちゃ引かれそう」
「なら何故思い付いた」
「やっぱり告るなんて無理だったんだぁ。頼んどいてなんだけど、やっぱり諦める……」
「せめて、LINEとか電話とか手紙とか思い付いてから諦めろ」
「思い付いたけど、どれも返事が返って来るまでの時間が長すぎて待っている間に死にそう」
「臆病者め」
「何かいい方法無いかなあ」
「すぐ返事が来て、顔を合わせることが無くて、相手も恥ずかしくない方法ねえ……」
私は、時計を見てきっぱり言った。
「無いな」
「そんな一刀両断しなくても!」
奴は眉を思い切り下げ、泣きそうな顔になった。
「だから、ちぃちゃんが代わりに告ってくれたらいいんだって!」
「馬鹿か、馬鹿なのか。誰が告白に代理人立てるような奴と付き合うってんだ、ふざけるなよ」
「うううう、でも、好きなんだよ……彼女のこと、本当に」
「なら、どうにかして告れよ」
「でも……恥ずかしくて。断られると思うと、怖くって」
奴が、顔を覆いながら、絞り出すような声で言う。
「大好き過ぎて、怖いんだ」
本気の、声音。
今までの付き合いでわかる。
私は一つ頷くと、
「……だってよ」
教室の外に声をかけた。
「え!?」
バッと奴が顔を上げる。
かたん、と音がした方へ視線をやると、私の親友が立っていた。
顔を真っ赤にして。
スカートをめいっぱい握り締めて、くしゃくしゃにして。
「えええええ!?」
「これが、『顔を合わせずに出来る告白』の最適解だと思うんだけど?」
「あ、あ、あ、ああ……」
顔を林檎みたいにした二人を残して、私は颯爽と席を立った。
「それじゃあ、あとは上手くやんなよ。二人とも」
*
「健気だねぇ」
「アンタもいたの」
廊下には、もう一人の親友が待っていた。
「あの子の付き添い」
「あっそ」
二人並んで、歩き出す。
「でも、いいの?」
声を低めて、彼女が言う。
「何が?」
「あの子のこと、好きなんでしょ?」
「そりゃ、好きだよ。親友だから」
「ちがくて。……もっと、特別に。私とは、違う意味で」
「……」
私はため息を吐いた。
「そりゃ、あいつが相手なんて本当は嫌だっつか、勿体ないって思うよ。見ての通り、ヘタレだし、弱っちぃし」
「……」
「けど」
長年の付き合いだから、悪いところはもちろん、いいところも知っている。
「優しい奴だよ。真面目だし、大事にしてるものは、どんなことがあっても守り通す。ヘタレのくせに、そういうとこは頑固だよ」
「……」
「そして、あの子はさ。付き合うなら『怒りんぼじゃなくて、優しい人がいい』って言ってた」
可愛い、可愛い、自慢の親友。
優しくて、大人しくて、そっとそこにいてくれる子。
「アンタも優しいじゃん」
「私は、言葉がキツすぎるからね」
友だちにはいいかも知れないけど、と肩を竦めた。
「そもそも、女に興味あるか知らないし」
「だから、諦めるの?」
私は、振り返って笑った。
サイッコーの笑顔で。あの子が褒めてくれた笑顔の形で。
「諦めたんじゃない。大好きなあの子に、理想に近いかも知れない恋人をプレゼントしただけ」
「……アンタのそういうところ、私好きよ」
私は、ありがと、と言って、もう一人の親友の肩を叩いた。
END.
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