第75話 休日出勤はご法度です!(夫婦。甘め)


 休日。けれど今日も仕事だ、朝日が眩しい!

 化粧などする気力も無く。マスクで誤魔化せばそれで良し。朝ごはんも、食欲が無いのでパス、さっさと着替える。

 栄養ドリンク片手に「さて行くか」と踏み出したところで。

「休め」

 我が背の君に止められた。がっしと。肩を掴まれて。

「え……でも」

「いいから」

 冗談かと思いきや、本気だった。目が本気だ。

「蒼白い顔して、何考えてんだ。それでどうやって仕事する気だ」

「き……気合?」

「馬鹿言え」

 チッと舌打ちつき。え、ちょっと怖い。

 最近、休日出勤が連続しているからかな? 構えなくてごめんね?

 そう言おうと思ったけれど、そのまま、ぽいっと寝室に放り込まれて言えずじまい。

 というか、あれ?

 いつのまに寝室に?

 ぼんやりしてる間に、鞄は床、スーツもぺぺぺいと脱がされる。

 抵抗しなきゃ、と思っているのに、身体は動かない。

 あれ? あれ?

 気付いたら、視界も薄らぼんやりしている。

「会社にとってもお前は大事かも知れない。お前の代わりは、なかなか見付からないんだろうってのも、わかる」

「……」

 がぽっと被せられたのは、パジャマ代わりにしている大き目のTシャツワンピだ。

 もごもごと腕を通す。

「だけど」

 ぽん、と彼の温かな手が頭に乗った。

「それでも、俺の嫁であるお前の代わりは、見付からないじゃなくて『居ない』から。優先するなら、こっちだろ」

「!」

 ハッとして、彼を見上げる。

 滲んだ視界でも、彼が優しい目をしているのがわかった。

「お前が仕事を好きなのはわかってる。……でも、押し付けられたことをぜんぶこなそうとするのは、お前の悪い癖だ」

「……うん」

「お前の夫の為に、ちょっと加減してくれないか」

「わかった」

 ぽす、と彼の肩に額をくっつける。

「ありがと」

「わかったんなら、寝ろ」

「うん」

 くにゃ、と身体から力が抜けた。

 ああ、私。

 本当はこんなにも、力の入らない身体をしていたんだ。

 頭もくらくらする。

「俺から、連絡しとくから」

「う……ん……」

 ふわりと柔らかい布団の感触。意識が、ぶわーんと広がり溶けた。


 END.

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