第49話 出世払いは、プロポーズの返事で(百合? 女子高生)


 書道部の部室は、畳敷きの和室だ。

 そこに並べられた机に向かって、書を認める。

 だが今、そこで硯を前に筆をとる者は居なかった。

「眠い……」

「なら膝枕しよーかー? 一分五千円で☆」

「たっかいわ。そんなクソ高い枕なぞいるか」

 少女が二人、だらけて机に伸びているだけだ。

「やだなー。女子高生の膝は、それくらいのお値打ちものよ?」

 キサラが、長い髪をかきあげ、ウィンクする。

「その言い方ヤメロ、キモい」

 奈央が、うげぇと顔をしかめた。

「キモいまで言う必要なくない?」

「あー……眠い。もう帰っていいかな」

 自身の短い髪を混ぜっ返しながら、奈央はため息を吐く。

「だめだよー。部長さんが待っててって言ったんだし、待ってないと」

「てか、部長は何しに何処へ行ったんだよ」

「さー? 副部長探しにどっかへ」

「どっかってどこだよ。いつまでかかるんだよ」

「さー? 副部長次第じゃない?」

「つか、他の部員は?」

「活動日じゃないからそりゃ来ないっしょ」

「あー。幹部なんかなるんじゃなかった。書記なんてクソ」

「そう言うなってー。活動記録とか、生徒会に提出しなきゃなんだし。重要な役どころじゃーん」

「会議の議事録とかいるわけ? 録音でいいだろもう」

「いるよー。私たちのぐだぐだおしゃべりなんて、他人様にお聞かせ出来るもんじゃないからねー」

「……まあ確かに、裏金がどうとか、普通に話してるもんな」

「それそれー。だからダメだよー」

「……なあ」

「はぁい」

 奈央が、もう一度キサラに呼びかけた。

 キサラは、今度は混ぜっ返すことなく返事をし、身体をずらした。

 壁にもたれ、脚を前に投げ出す。

 どうぞ、と言う前に、奈央の形の良い頭が膝の上に降りて来た。

「部長来たら起こして」

「あいあいさー」

 自称『分給:五千円』の膝は、今のところ奈央だけにしか貸していない。

「出世払いだからねー」

「はいはい」

 それだけ言って、奈央は目を瞑った。

 いつものやりとり。

 キサラは素直に膝を貸さないし、奈央は一度「そんな高い膝いるか」と断る。

 けれど、しばらく話したらこうしてキサラの膝で奈央は休息を取る。

 『分給:五千円』を出世払いすることに、おざなりでもうなずいて。

「出世払いが無理だったら、結婚でもいいよー」

「……………」

 すでに夢の世界へ旅立っている奈央が返事することは無い。

 わかっていて、毎度キサラはこう呟く。

「プロポーズの返事は、出来たら卒業式までにしてね」

「…………」

 積み重なった言葉に奈央が気付いているのかどうか。

 知るのは、465日後である。


 END.

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