第47話 悔しいけれど放っておけない(百合? 女子高生。付き合ってない)


 ドタバタドタバタッ

 笹百合女学院の廊下に、三つ分の足音が高らかに響き渡る。

「待ちなさーい!」

「あっはっはっはっはー! 見て見て、怒った神父がよりタコさんウィンナーだよ~~~!」

「馬鹿なこと言ってないで、もっと早く走りなさいよっ」

 アンタの所為なんだからねっと手を引きながら言う果林に、「そうは言ってもねぇ」と詩織が肩を竦めた。

 二人の後ろを、烈火の如く怒り狂ったフィリップ神父が追いかけている。

 この国でいちばん有名な宣教師と同じ髪型の彼は、確かに今、タコさんウィンナーばりに顔も頭も真っ赤に染まっていた。

「しっかし、神父だってのに、うら若き少女を追いかけ回すなんて。やっぱり、聖職者もただの人ってことかにゃ?」

「かにゃ? じゃないわよ! 誰だって頭を指差して『わーい、タコさんウィンナ~!』なんて言われたら怒るに決まってるでしょバッカじゃないの!」

「だって、いっつもカリカリ怒って頭真っ赤で、本当にタコさんウィンナーみたいだからさぁ」

 だだだだっ

 二人は、突き当りにある階段をスピードを落とさず駆け下りた。

「それにタコさんウィンナー、可愛くない?」

「可愛いけど、言われた状況によるでしょっ」

 二人は一番下まで下りると、そのまま非常扉を開け、外へと飛び出し……た風に見せかけ、急いで階段裏に逃げ込んだ。

「ハアッハアッ、ま、待ちなさーい!」

 階段を慎重かつ急いで駆け下りて来たフィリップ神父は、息を切らしながら、開け放たれたドアの向こうへと消えて行った。

「ふう、間一髪」

「ま、どうせ担任に報告されてこってり絞られるわよ」

「ん~。そーれは面倒。このまま帰るか!」

「叱られるのが明日に伸びるだけでしょ……。鞄は?」

「定期入れも財布もポケットの中にあるし、置いてく~」

「あっそ。私は取りに戻るから」

「ん~。……あ、果林」

 ひらひらと詩織が手を振った。

「ありがとね。手を引いてくれて。足の速い果林が手を引いてくれなきゃ、捕まってたかも」

 それと、非常扉の妙案も。

 詩織の礼に、果林は「別に」とそっけなく言った。

「何となく、一緒に居た私にもとばっちりが来そうだったからね」

「もし、詩織が先生に呼び出されたら、私が詩織は関係ないって言っとくからね」

「あったりまえでしょ。……じゃあ、またあしたね」

「うん。またあした~!」

 すたこらさっさと下足室へ向かう詩織。

 果林は、やれやれ、というように首を横へ振って、また階段を上り始める。

 別に、あの場で逃げる詩織の手を引くことは無かった。

 バカじゃないの、と見送るだけでも良かった。

 それでも、思わず手を引いてしまったのは。

「……まったく、いっつも世話を焼かせてくれる奴ね」

 放っておけないと思わせる彼女のことが、恐らく多分、誰よりも、

「気に入ってるって、だけなんだから」

 ということに、今はまだしておく。


 今は、まだ。


 END.

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