第28話 あげ☆ぱんつ先生の追っかけについて(手品部。女子二人会話)


 笹百合女学院の文化祭は、三日ある。今日はその初日。

 私たち手品部の出番は、二日目の午前中だ。

 だから、一日目の午後は部室で自主練することが多いのだけれど。

「うう……っ、最高に良かった」

 私の友人は今、漫研部の部誌を抱え、鼻水垂らして泣いていた。

「なに練習中に漫画読んで泣いてんの、アンタは」

 明日はうちらの出番だっつーの。

 私がツッコむと、彼女は大きく頭を振った。

「いや、手品なんかしてる場合じゃないよ」

「じゃ、何でお前、手品部入った?」

 しろよ、手品。

 先輩・後輩たちがちょうど出払っているときで良かった。

「本当、あげ☆ぱんつ先生の新作が、本当、本当に良くって……!」

「ああ、アンタが中一の頃から追ってる漫研の人ね」

 うちらの学校は中高一貫で、部活動は中高合同で行う。

 今、私たちは高一だから、かれこれ三年ほど追っかけをしていることになる。

「今回、あげ☆ぱんつ先生初のBLだったんだけど!」

「あれ、アンタBLは読まないんじゃなかったっけ?」

「普段は読まないんだけど、あげ☆ぱんつ先生のは特別だから、えいやって読んでみたの」

「どうでもいいけど、毎回その名前のせいでいまいち内容が入って来ないわ」

 ネーミングセンスの無さよ。

「そしたらば、すんごく良くって!!」

 私のツッコミをものともせず、彼女は力強く言った。

 くわっと目を見開いて。

「そ、そんなに?」

 あまりの勢いに、私は引いてしまう。

「まず、パン食い競争で主人公が逆走してお相手の子と出逢うんだけど」

「ごめん、まず初めから意味が分からない」

「それで、主人公は戦隊ヒーロー候補生なんだけど、お相手の子がそれを邪魔するのね」

「情報量多いな……」

「どうしてそんなことをって思っていたら、実は戦隊ヒーローになったら、主人公は敵に暗殺されちゃうのね。それを阻止するために、お相手の子は未来から来たってどんでん返しで」

「うん。どっかで聞いた話だね?」

 十年くらい前にやってた魔法少女のアニメかな?

 あれは兄の影響で映画版だけブルーレイで観た。良かったけど、半分トラウマだ。

「それで、主人公庇って死んじゃうの……」

「読む気は端から無かったけど、いきなりオチ言うなよ」

 この子は何かを誰かに勧めるのが下手だと思う。

「こんなジェットコースター展開を、コメディ交えつつ十六ページで収めちゃうあげ☆ぱんつ先生は神様だと思う……」

「待って? その内容で十六ページとか、どんな構成力してるの? 魂を地球外生命体に売ったの?」

 ネタバレされても、ちょっと読んでみたくなった。恐るべし、あげ☆ぱんつ。


「は~一度でいいからお会いしてみたい、あげ☆ぱんつ先生……」

「同じ学校にいるんだから、会えるでしょうよ。てか、漫研部行ったんだったら、聞いてみればいいのに」

「ダメ! 偶然出会いたいの! 図書室で本を手に取ろうとしたら手が重なって、みたいな!」

「どんな少女漫画だよ」


 END.

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