第27話 ラブコメの伝統美について語ろう(女の子二人)
梅雨時期。
湿気が鬱陶しく、欝々となる。
こういうときこそ、漫画の力が必要だ。
そんなわけで、我らが笹百合女学院漫画研究部は、今日も今日とてペンを走らせるのだ。
「古式ゆかしいってあるじゃないか」
「どうした、いきなり」
……ペンを走らせていないときは、ネタ出しをしているときだ。
部員同士の雑談も、大事なネタ出し。
今日も今日とて、我々はお互いにネタを持ち合い、出し合い、切磋琢磨して、漫画を作る。
「すべての文化には、古式ゆかしい伝統的な様式美ってのがあるだろう?」
「まあ、そうだな」
なればこそ、友人のよくわからない切り出し方の話にも、一応乗っかっていくのである。
「例えば、少女漫画における古式ゆかしい様式美と言えば」
「正反対の二人から好意を向けられるとか?」
「いや、遅刻しそうになってパンをくわえて走ってぶつかった相手が転校生だ」
「確かに古式ゆかしいが……あれって少女漫画限定か? ラブコメ全般だと思うぞ」
というか、元ネタはどの漫画なのだろう。
「しかし、様式美ばかりにとらわれていては、革新は叶わない。ならば、ある程度伝統を守った上で新しさも付け加えなければならない。そう思わないか?」
「一理ある」
「そこでだ。あの出逢いって、たいてい食パンをくわえてるだろう?」
「そうか?」
そもそも実はあのシチュエーションの漫画自体、あまり見たことが無いのだが。
「それをフランスパンに変えるのはどうだろう」
「リノベーションするとこそこかよ」
「それを言うならイノベーションでは?」
「イノベーションするとこそこかよ」
「フランスパンが顔面にぶつかってこけるなんて場面、シュールでいいと思わないか」
「ラブコメは確かにコメディだけど、そういう笑いは求められてないと思うし、笑えなかった場合、何かもう悲惨だぞ」
「あと『何フランスパンくわえてんだよ』っていう某新喜劇のネタが使える」
「あれは実際くわえてないから面白いんであって、真実くわえてたら何も面白くないと思う」
あとパクリだめ、絶対。この場合、オマージュになるのか? しかし、オマージュして笑えなかったらそれも失礼に当たる気がするので却下である。
「他にもあんぱんなんかも考えたんだが」
「それただのパン食い競争だな?」
「ハッ、パン食い競争でぶつかってからのラブロマンス……?」
「ヒロインか相手か、どっちか逆走してんじゃん」
「逆走から始まるラブロマンス……?」
「パンどこ行った」
いや、そうではなくて。
「てか、基本的に体育祭の走る系の種目って男女別なのでは?」
や、これも本質的なツッコミとして違う気もするが。
そして女子校育ちあるある・男女が一緒のものと違うものがわからない問題。
「じゃあBLでしか使えないか……つまり、私の次回作は初のBL漫画になるんだな」
「待て待て。マジで描く気で話を?」
「それはそう。私はいつだって真面目に漫画の話をしている」
証拠に真顔だろ、と言われた。言われましても。
「……。まあ、濡れ場が無ければ、BLでもGLでもオールオッケーとは部長も言ってたしなあ」
「じゃあ、逆走ロマンスで決まりだな……」
「しかし本当にパンどこ行ったって話だし、少女漫画の伝統もどこ行った……」
……我々は日夜、人々を夢中にさせる漫画を作るべく、切磋琢磨して漫画を描いています。
おいでませ、笹百合女学院漫画研究部。
END.
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