第23話 中学生の従妹と大学生の親友の恋を見守るお姉さんのお話(百合。第三者視点)


 黙っていれば、美少年にも間違われる我が麗しの従妹殿が言った。

「マキ姉、もしかして環先輩って、私のこと人外か何かだと思ってる?」

「まあ確かに、しょっちゅう『薫くん妖精!』『薫くんは天使!』とは言ってるけど」

 いきなり人んちに遊びに来たと思ったら、まず我が友人のこと。

 たまには、「マキ姉、もしかして痩せた?」とか「彼氏と上手くいってる?」とか言えないもんか。

 それはさておき。

「それが?」

「いや、昨日、環先輩が可愛かったから勢い余って押し倒しちゃったんだけどさぁ」

「ちょっと待って。私、別に身内の恋愛事情とか聞きたくないんだけど」

 しかも中学生と大学生の。

 聞きたくない。断じて聞きたくない。

「あーごめん。そのへんの考慮は出来ないわ」

「いや、して? 従妹と親友の恋愛とか生々しくて聞きたくないから」

「だって、こんなこと相談できるの、共通の知人であるマキ姉にしか無理だし」

「うん。そうだろうけど、でも私にも人権ってもんが」

「今は無視させてほしい」

「えええー……」

 中学三年生よ。お前は今、公民を習っている最中ではないのか。

 それとも今の公民には、人権とか何かそのへんのことは習わないのか。じゃあ何習うんだよ。日本の疲弊した経済か?

「あ、押し倒したって言っても、あれだよ。ちゅーまでだよ」

「当たり前だよ。中学生のガキからそれ以上先の相談なんか受けたくないよこっちは」

「でもまあ、いざキスしようとしたらさぁ……」


『か、薫くん、そんなのダメ……』


「って涙目で言われてさ。じゃあ何で付き合ってんだよっていう」

「その科白、キスだからまだどっかギリだけど、それ以上についてとかだったらクズ認定されかねんからね」

「わかってるから、マキ姉に相談してんじゃん」

 けろっとした顔で言われましても。

 しかし、そうか。キスまで(未遂とは言え)いっているのか……そういうところまで深まって行こうとしているのか……引き合わせた身としては、何かこう、感慨深いような。やはり深く聞くのは遠慮したいような。

「何かなぁ……キスしたいとかって思ってるの、私だけなのかなぁ……」

 しょげた顔で、薫が言う。

「薫……」

 あまりにしゅんとしているので、可哀想になって来た。

「まあ言って、あいつクソヲタでもあるからさ。何かこう、『顔の良い女の子』に夢を見ちゃってる節があるからさ」

 親友よ、本当のことを言ってスマン。

 けれど、慰めたい気持ちになってしまったのだから仕方ない。

「たぶん、いきなり憧れの二次元女神にキスされそうになって吃驚したとか、そんな類の感情だと思うんだよね」

「先輩、本当に女子で良かったよね……。男でそのムーブかまされたらキモいもん」

「お前は全夢見がち男子に謝れ」

 確かにちょっと「Oh…」となるかも知れないが、キモいまで言ってはいけない。

「は~~~。こっちだって顔が良いだけで、ただの人間だって言うのに」

「顔が良いの認めるとこ、ホントいい性格してるよな」

「だって本当のことだもん」

 きょとん、とした顔で、従妹殿。

 そんな顔ですら綺麗なのだから狡い。

「でもま、顔で惚れられたんだし。使ってかないとだよね」

 やれやれ、とため息を吐く薫は、本当に中学生なのだろうかと半目になった。

「まあ、その顔で今、お前さんは困難にぶち当たってるんだけどね」

「それね。あー。マジでどうやって人間だって分からせよ」

 分からせようって、お前。

「……本当末恐ろしいわー」

 とりあえず、これ以上何かわけのわからない相談が持ちかけられないよう、私は天に祈った。


 END.

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