第16話 露出狂じゃないから付き合うかも知れない(百合。告白)


「女の露出狂っているんスかね?」

「どうした、藪から棒に」

 後輩が、いきなりそんなことを聞いて来た。

 ここは、私の部屋だ。就職してから一人暮らし。ワンルームの狭い部屋だが、愛着はある。

 後輩は、職場の後輩。

 すぐに意気投合して仲良くなった。

 金髪黒メッシュ、派手なヒョウ柄ジャージと、見た目はやんちゃだが、礼儀正しく、几帳面ないい子だと思う。

 ふと鏡を見れば、プリン頭の自分が映る。……染め直さなければいけないというのに、まったく私と来たら。髪を染めると、自堕落ぶりがよくわかる。

 後輩の、いつだって美しい金色黒メッシュの髪は、きちんと手入れをしている証拠だ。つまり、やっぱり彼女は几帳面でいい子だというわけだ。

「いや、気になったッス……ああいうのは絶対男女どちら共にある欲求だと思うんスよね。これ持論ッス」

「どういう持論かはわからんが、まあいるんじゃないか。知らんけど」

「じゃあその場合、対象はどっちになるんスかね……」

「普通に、その人自身の性愛対象者じゃないか?」

「じゃあ異性愛者の露出狂女子は、危なくないッスか」

「そのへんの危険も承知してやってるんじゃないか?」

 二人とも見た目は少々やんちゃだが、それなりに本は読む。

 だから、ちょっと小難しい言葉なんか使ってみたりする。

 もちろん、自分たち的に小難しいだけであり、本当に真面目に勉学をし、読書をして来た人たちからしたら「うわ、頭悪っ」と思われるだろうことは理解しているつもりだ。

 無知の知。

 言ってみただけだ。

「そもそも、女に裸見せて『キャー!』って言われると思うか?」

「……先輩はどッスか。素っ裸の女が角から飛び出して来たら」

「……」

「……」

 しばし二人で想像の世界へ。

「別の意味で叫ぶな」

 驚きというか……やべぇやつにぶち当たった的な意味で叫ぶだろう。

 想像の世界の私は叫んだ。

「同感ッス」

 想像の世界の後輩も叫んだらしかった。

「ってことは、やっぱり女相手でも目的は果たせる訳だな」

「え、あの人達って叫ばれたいんスか?」

「知らんけど、そうじゃないのか?」

 そんなことを何かの本か雑誌で読んだ気がする。

「で、何で露出狂の話?」

「うッス」

 後輩がうなずいた。

「先輩が、女もイケる口か知りたくて」

「……」

「……」

 またも沈黙。

「例え、女がイケる口でも、露出狂の人間はちょっと御免被るな」

 素直に言った。

「うッス。半分同感ッス」

「半分?」

「私、先輩が露出狂でも愛してるんで」

「……」

「……」

 脳の処理が追いつかない。

「ごめん、何て?」

 そのため、もう一度たずねた。

「先輩が露出狂でも愛して」

 何を思ったか、後輩が大音量で先ほどの言葉を繰り返す。

「声の音量下げろ」

「すみません、聞こえなかったのかと思って」

「聞こえとるわ」

 脳内で処理が終わった。

「え、何、え? 告白? 愛の告白?」

 処理の結果、出た答えを確認する。

「うッス」

 正解。

「……」

「……」

 沈黙。

「……とりあえず、考えてもいい?」

「いつまででも待ってるッス」

 自分は異性愛者だったが、何故か即お断りではなく、いったん考える方向にしてしまったのは、たぶん混乱していた所為だと信じたい。


「……とりあえず、お前自身は露出狂じゃないんだな?」

「うッス。肌見せは基本恥ずかしいッス」


 やはり、後輩は真面目ないい子である。


 END.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る