第27話 ナーヴェの胸中Ⅱ
ナーヴェの私室に置かれている繊細な細工が施された硝子ケース。
その中は彼の魔力で満たされて、もう長い間ひっそりとその時を止めたままだった。
そこに納められた一輪の百合の花は、たった今摘んできたばかりのような瑞々しさを放っていた。
◇
思いが溢れ出さないように、何ともないような振りをして、堪え続けているのもそろそろ限界になってきた。
辛いはずなのに強がって無理をしている彼女の様子を、見ているのが耐え難い。
早くあんなところから救い出したいのに。
こんなに近くにいるのに、手を差し伸べて、抱きしめることすらかなわない。
守りたいのに・・・。
君が助けを求めてくれるならば、今すぐどうにかするのに。
私なら、あんな思いはさせないのに。
もうこんなところには居たくない、そう心から願ってくれさえすれば、私は迎えに行けるのに・・・。
あんなに傷ついているのに、ずっと蔑ろにされているのに、君はまだあの男からの愛を求めている。
何もかも持っているくせに、私から大切な『唯一』さえ取りあげて、挙句彼女を飼い殺しにして苦しめる・・・私が敬する王でありながら、兄にして、許しがたい男。
もうずっと心も身体も傷だらけの君を見ていられない。
もう耐えられそうにない。
けれど、君の意思の自由を何よりも尊重するとあの時誓ったのだから、私から約束を違える訳にはいかない。
どうして君がまだ兄上を愛しているのか理解したくない、あんなに君に対して不誠実な男なのに。
どこまでも現実から逃げない君の強さが、君をさらに深く傷つける。
それでも、まだ君が兄上との未来を望んでいるのならば、二人が上手くいくために最善を尽くすしかない。
それが、この道化じみた私に求められるたった一つの務めだろう。
◇
もしも彼女が「もうここには居たくない」と願ったなら、ナーヴェはいつでもすぐに迎えにいくと決めていた。
彼女の立場が王妃でも、兄の番でも、そんな肩書は彼にとっては些末な事だった。
彼女の望みなのか、そうではないのか、それ以外はナーヴェにとって無意味だった。
ただ、ナーヴェはアメリアが傷つくのをもう見ていたくなかった。
どうか笑っておくれ、私の
ナーヴェはあの遠い夏の日を思った。
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