第25話


 アメリアは、結論に至った。


 そんな事はありえないと一瞬思ったが、当時の彼の精神状態を察すれば無いとは言い切れなかった。



 アメリアは本能的に理解した。


『おそらくセルヴィスは、あの薬を一度に全て摂取したのだ』と。



 彼女が以前推測した通り、彼は確かに病にかかってなど居なかったのだ。


 彼は別の目的の為に、それを摂取したのだ。


 病の治療のためではなく、その薬の副作用だけを狙って、それを確実にするために・・・。



 アメリアは医療書の但し書きを思い出す。

 最後に禁忌として書かれていた一文の項目を。


『一度に大量摂取した場合、不可逆的な副作用をもたらす』


 だから、彼の痣は死んだように黒化して、自分を顧みることもなかったのだと、悟った。


 そして、はっきりと解ってしまった。


 彼はもう二度と戻らないのだ、と。


 彼はこれからも今のままで、ずっと変わることは無いのだ、ということも・・・。


 他人はもちろん、アメリアも、彼自身でさえも、もう彼を変えることは出来ないのだということも。



 薬の発注時期がすべてを物語っているような気がした。


 愛する人を自分で死に追いやった自分に絶望した彼は、番を感じることなどもうこりごりだと、自暴自棄にも似た思いで一気に薬をあおったに違いない。


 彼はどんな思いでそれを飲んだのだろう。


 アメリアはセルヴィスの心境を思うと胸が詰まったが、想像を絶するような彼のその失意の深さを量りきることは、到底出来そうになかった。


 謎を解き明かしたことに対する僅かな喜びは、感じる間もなく闇のような黒い失望に塗りつぶされた。



 アメリアは真実に辿り着いてしまった。


 番としての彼はアメリアと出会うよりも先に、すでに死んでいたのだ。


 やはり、行き着くべきではなかった終着点だったのかもしれない。



 そこには、ただ空虚で救いようのない事実が横たわっていただけだった。


 アメリアが望んでいた場所には、今更何をしようとも辿り着けないのだということ。


 自分は初めから不必要な存在だったという事が、ただ何よりも明らかになっただけだった。



 彼女は、もう本当に、彼が自分のものになることは永遠に無いのだという、一方的な最後通告を言い渡されたような気がした。


 アメリアは、目の前が真っ暗になったようだった。


 考えがうまく纏まらない。


 悲しくて、虚しくて、惨めでどうしようも無いはずなのに、彼女が涙を見せることはなかった。


 その慟哭に揺れる心境とは裏腹に、長く続いた苦悩は、彼女の泉を既にに涸れ果てさせてしまっていた為だった。


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