第22話 ナーヴェの胸中


 何か言いたいことがあるようだが、今ひとつ煮え切らない兄上に苛立ちを覚えた。


 だが、了承をとって、何とか義姉上との茶会を取り付けることに成功した。


 二人が上手くいくというのなら、それで良いのだ。



 外交上の機密に関わる話をするという名目で、侍女や護衛たちには席を外させた。


 私は早速、話題の核心について話を振った。


 兄上が辛く当たっているのではないか?


 義姉上はどう感じていて、これからどうしたいと思っているのか?



 彼女は、意外なことを口にした。


 兄上は病か呪いに罹っているのではないか、と。



 実際に問うつもりはなかったのに、うっかり口に出てしまったという様子だった。


 私は驚きで僅かに目を見開いた。


 幼いころから兄上と過ごしてきた私から見ても、今の状態はどこか常軌を逸しているような異常さを感じていたので、何か原因があるのかもしれないと疑ってみたことはあった。


 魔術や呪いの類に関しては、私も以前調べたことがあったのだが、これといって該当するものは見つからなかったのだ。


 だが、病というのは案外ありえるのかもしれない。


 私の方でも一度調べてみるか・・・。



 今までの兄上に関する情報を総合して考えると、いつからなのかは判らないが、現在の兄上の番の印は力を失っている、それは間違いないだろう。


 今度こそ、話の核心について話し合わなくては。


 兄上が何を考えているのか、彼の行動原理が全く解らない。


 話などしなくとも、義姉上と円満に行くのであればそれが一番なのだが・・・。



 ◇



 先日、話したときは私が自分を抑えきれず激昂してしまったせいで、兄上が萎縮してしまった。


 何か兄上の方からも話があるような様子だったのに、急に押し黙ってしまったように見えた。


 失敗だった。


 私が問い詰めるばかりで、まともな話が一切できないまま終わってしまった。


 もっと冷静に話をするべきだった。



 兄上は、公務の時こそ作り込んだ国王の仮面を被って、それこそ一分の隙も無いような完璧な男に見える。


 しかし、私人としては根は優しいが、自分の意見を中々口にしないような優柔不断なところがある。


 些細なことが気になる性分で、他人から傷つけられることを極端に恐れているように見える。


 悪く言えば、自分の気持ちを守ること以外には目を瞑り、悪気なく他人の気持ちを蹂躙できる性質とも言える。


 自分が傷つかない為に、空気でも吸うように他人を傷つけ続ける人だ。


 自覚も悪気も無いだけに、余計にたちが悪い。


 だが、国王としての兄上は尊敬していた。

 矛盾している。



 出来ることなら、二人きりの時も王として振る舞ってくれれば、私も臣下という立場で、もう少し落ち着いて話が出来たのではないかとも思った。


 しかし、私の方も兄上と一対一であれば、気をつけているつもりでも、いつの間にか生来持っている気性の激しさを露呈させてしまっていた。


 結局のところ、お互い様なのかもしれない。


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