第8話
どうすれば、セルヴィス様は私を見てくださるのかしら?
セルヴィスと共に過ごすことで、数え切れないほどの見えない傷を負ったアメリアだったが、彼女は痛みを堪えて常に前を向こうとした。
アメリアは大変な努力家だった。
他人に努力を強制することは無かったが、自分に対しては非常に厳しい人間であった。
努力さえすれば、どんなに困難な事だろうと解決できるに違いない、と彼女は信じていた。
もし頑張ってみても上手くいかないのだとしたら、それはまだ努力不足だというだけで、上手くいかないからといって諦めることは、怠惰だとすら考えていた。
そしてそれが、これまで突き当たったを困難を自力で乗り越え続けてきた自分に対するプライドでもあった。
彼女には、世の中にはどんなに努力してもどうにもならない壁があることなど、露ほども想像することができなかった。
今までの彼女の世界に不可能という文字は存在しなかった故に。
それはある種、『侯爵令嬢』という自らが望んで努力さえすればどんなことにでも手が届くと思わせるだけの、恵まれた立場に生を受けた存在ゆえの傲慢さだったのかもしれない。
アメリアのそういった性分は普段の生活や公務の点ではプラスに働いたが、こと色恋事に関してはマイナスにしかならなかった。
幾ら尽くしてもアメリアに振り向かないセルヴィス。
その現状に対して彼女が出した答えは適切ではなかった。
相手の心が変わらないのは、相手自身の都合でしかなく、こちらがどう働きかけようとも確定した結果にたどり着けるとは限らない。
にも関わらず、『自分が愛されないのは、自分の努力が足りないせいだ』と彼女は考えた。
その思考が、逃れられない苦しみの沼への入り口だとも知らずに。
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