第4話 アメリアの胸中


 アメリアは憂鬱だった。


 もう誰にも会いたくない気分だった。




 あの日、番だといって引き合わされた国王は柔らかな金の髪に吸い込まれそうな翡翠色の瞳を持った長身の美丈夫だった。


 番を示す痣が熱を持って、彼が自身にとっての唯一だと知らせた。


 こんなに美しい人が自分の番だなんて、そう思うと心が躍った。


 セルヴィスが彼女の前で微笑みを絶やすことは一度も無かった。


 アメリアは幸せすぎて周りのことが見えないくらいに舞い上がっていた。



 しかし、彼女には一つだけ気がかりがあった。

 出会ってから一度もセルヴィスが目を合わせてくれないことだった。


 どうしてこちらを見てくださらないのかしら?


 アメリアにとっては気になることだったが、周囲の人間は国王はアメリア様が素晴らしすぎて照れているのでしょうと言って取りあわなかった。


 まだお互い出会ったばかりでもあるし、セルヴィスの態度も次第に変わるかもしれないと思いなおし、気に留めないことにした。


 アメリアは短い婚約期間中も努めて明るく振舞った。

 まるで不安など、何も無いかのように。


 きっと、結婚式になったらドレスを着た私と目を合わせて微笑んでくださるに違いないわ、と密かな期待を胸にしまって。


 だが、期待は裏切られ、結婚式の当日になってもセルヴィスが彼女をその翡翠色の瞳に映すことはなかった。


 まるで心が通い合っているかのように、そろって互いの色で誂えられた豪奢で美しい衣装は、二人の現状にそぐわない分だけ白々しく感じられ、余計にアメリアの虚しさを募らせた。


 その出来事は、雲一つなく晴れ渡る空のようだったアメリアの心に、後に広がっていく小さな影を落としたのだった。

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