第2話


 エルランド国の王、セルヴィスは処刑された元婚約者のレクシアのことを考えていた。


 なぜ彼女は番を騙るなどという馬鹿げたことを行ったのだろう、自分の命まで賭けて。


 10年前、王の番だと突然名乗り出てきた女性がレクシアだった。


 番の痣の確認も滞りなく、話はトントン拍子に進み、彼女はセルヴィスの婚約者になった。


 レクシアは平民で裕福な商家出身だったが、貴族令嬢と言っても差し支えない洗練された雰囲気を持ち、美しく魅力的な女性だった。


 ただ彼女が傍にいるだけで、心が蕩けていくような不思議な感覚があり、これが番というものなのだろうかとセルヴィスは思った。


 まだ王になったばかりで、若く女性経験もほとんどなかった彼はたちまち彼女の虜になった。


 いつしか、彼はレクシアの存在だけが頭の中を占めるようになり、私室から出ることも殆どなくなって、公務が疎かになっていった。


 元来賢明な王であったはずの彼の豹変に不信感を抱いた宰相が、密かに部下に探らせたところ、レクシアが番を偽っているということが露見した。


 番を偽るなど本来あってはならないし、あるはずもないという自国の常識から考えて、宰相もすぐには調査結果を信じることが出来なかった。

 しかし、真実を裏付ける証拠が嘘では無いということを物語っており、最終的には調査結果を信じるしかなかった。


 セルヴィスとレクシアの婚約は破談となり、レクシアは番を偽った罪で処刑された。


 魅了は解けたはずだった。

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