ソロ迷宮キャンプ
水原麻以
冤罪で刺客に追われた結果
「ダンジョンでソロキャンプとかマジかよ?しかもここはラスボスのフロアだぞ!」
俺は見習いの戦士だ。しかもたった一人。魔導士も僧侶も盾の勇者も精霊の守り人もいない状態でどうやって戦えと?
参ったなこりゃ。どうしてこうなったかと言えば、俺は冤罪で追われている身なのだ。
ギルド直営の酒場で俺は安酒を吞んでいた。そうしたらいきなり強盗が入ってきた。金を盗んで逃げる際、俺に向かって犯人が「おい、お前も早く逃げろ」と言いやがったのだ。おいおい、関係ない俺まで巻き込むなよ。
というわけで強盗野郎に嵌められて、俺は共犯になった。ギルドの公金横領は重罪だ。
そしてギルドは面子にかけて犯人を徹底的に追い詰める。そういう理由で俺はダンジョンの最下層、魔王のフロアに追い詰めれたしだいだ。どうすんのこれ。
「ソロで来るとは命知らずの猛者か究極のバカか?お前は」
いきなり魔王降臨かよ。俺は欠けたダガーを握りしめた。
「冤罪で追われてんだよ。嵌められた。たぶん俺は大器晩成型の勇者だ。目の上のたん瘤になる前に今のうちに潰そうって魂胆だろ。きっと国王の仕業だ。さて、魔王、あんたはどっちの味方だ?国王か俺か?」
すると魔王は質問に質問を返して来た。
「なに、お前は何の味方だ?」
つまり、孤立無援の俺を護る気はないという事だ。
奴にしてみりゃ魔王のフロアにアポなしで降り立つ者はすべて刺客だ。まさか弟子入り志願はないだろう。たどり着けた時点で免許皆伝だ。
そして今の俺はある意味無敵だ。全世界が俺を敵に回している。
つまり哲学的に言えば俺と世界は実力伯仲。俺個人の戦力と全世界の兵力が相殺しあって宇宙の調和を保っている。
誰も気づかなかったチートだ。
だから、まだ魔王との最終決戦は起きてない。
そこで俺は考えた。魔王を人質に取って世界に問うてやる。
「国王の命と、このことだよ」
そう言いながら俺はダガーを魔王に向けた。
それを待っていたかのように魔王がダガーを構え、俺と距離を詰める。
「魔王よ、俺はお前を潰さないとならないんだぜ」
俺はいきなり魔王の懐に飛び込んだ。魔王の左前脚が地面を貫くと同時に俺のダガーは魔王の顔面に突き刺さった。そのまま魔王の顎が地面に届くほどである。
「ふははは、よくもまあ、ここまで来れたものだ。お前は我が国を守るための勇者ではあるが、同時に国王の仇でもあるのだぞ。これ程の勇者を相手にすることになろうとはなと」
そうして俺は魔王を殺し魔王城に侵入した。
魔王の城の入口に近づくと魔族の歓声が聞こえて来た。
「おめでとうございます!新魔王様」
肌も露わな美女が俺に駆け寄ってきた。そしてかしずく。
そうなのだ。俺は死んだばかりの奴がすうっと心に入り込んでくるのを実感している。
「早速ですが、魔王候補をご指名ください」
女はたわわな胸を揺らしている。ビキニアーマー。不道徳の極みだ。これも魔王の地位か。俺は苦笑しつつ告げた。
「わかった。あいつがいい」
眼前の水晶玉に屈託のない少女の半生が映っている。
貧困なシングルマザーの娘で天真爛漫だ。そう、魔王はまっすぐな人材がふさわしい。理不尽な不幸で心がゆがみ、世界に復讐を誓うほどすさむためには、純粋無垢が必要だ。
そして貧乏人の小娘が一人仮に死んだところで国民の大半は悲しまない。
世界に見捨てられたときに魔王は生まれる。
「あの子が勇者に育つまで何年かかるか」
俺は女に訊いた。「わたくしの見立てでは十年程度」
そうか、胸も下腹も適度に発育する年頃だな。楽しみだ。
「フゥーハハハ。寝首をかきに来た日がお前の初夜だ!ただし独りで来い。そうなる試練は俺が仕度してやる。フゥーハハハ」
俺は魔王のループを少しだけ改編する異にしたのだ。このダンジョンを魔王で満たしてやる。
ソロ迷宮キャンプ 水原麻以 @maimizuhara
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