第4話 父のコート

「父のコート」


暗い朝だった

雨が激しく降っていた

着古したコートで

父は仕事に出かけるという


「ちょっと待ってて。」

「車を出すから。」

「送って行くから。」

「まだ出かけないで。」

「すぐに用意するから。」


父は

「いいから。」と言って

古い傘をさして

雨の中を歩き始めた

着古したコートが濡れている


父が仕事に出かけていく

毎日毎日出かけていく<

同じ服を着て同じ靴を履いて

僕たちのために出かけていく


自分のことはいいと言う

だから何も心配するなと言う

お前はお前でしっかり生きろと言う

母さんを大事にしろと言う


父の背中

着古したコート

タバコの臭いが染みついていた

安酒ばかり飲んでいた

<div>愚痴の一つもこぼさなかった


父が逝ってしまった日

僕は涙を飲み込むことしかできなかった

雨が降っていた

父のコートがまだ掛かっていた

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