家族の憧憬

詩川貴彦

第1話 僕たちの陽だまり

「僕たちの陽だまり」


いつもの病室で

壊れた母が笑っている


かつて

小さな日だまりの中で

寄り添うように暮らしていた

父がいて母がいて

兄がいて妹がいた

日なたの匂いがする時があって

永遠に続くと思っていた


夕闇の静寂の中に

朱色の空が融けていた

魂が抜け落ちた小さな陰が

振り子のように揺れていた


ずっと遠くを見つめていた

しきりに何かを訴えていた

それから時々僕を認識した

「もうおそいからきをつけてかえれ」


いつもの病室で

無邪気な母が笑っている


来世できっと償うからね

また産んでね

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