第5話 フーリガン

 ケイはギルド本部からマアノを自宅まで送り届けた


「ありがとうケイ」


 マアノはヘルメットを脱ぐと其れを脇に抱えケイに一礼する、言葉使いは荒いが、こう言うところが彼女は変に礼儀正しい、そのギャップにケイは笑を堪える。


 高津家

 旧武家屋敷の大きな家だ、マアノの家は高津流古流武術の本山、義理の父親である高津源一郎タカツゲンイチロウが現頭首、本山と言っても、もうここにしか存在しない。彼には5人の息子がいるが、いずれも各界で要職についていおり、誰一人高津流を継ぐ気がなく、後継者がいないという悩みがあった。

 マアノは高津家の血縁者ではない、養子として迎え入れられていると、ケイは師匠に聞いているが、その経緯については知らない。 

 ゲンイチロウは、高津流をマアノに継いで欲しいらしいのだが、彼女はその事について、嫌がっているとも聞いている。


「家でメシ食ってくか?」

と、マアノ

「いえ、ちょっと用があるので」

 ケイは断った。

「…そうか」

 じっとケイを見つめるマアノに、理由もなく少し焦るケイ

「な、なんすか?」

「…いや」

 マアノはフッと笑う

「?」

「…気をつけて帰れ…無理するなよ」

「は、はい…?」

 そう言ってマアノは踵を返すと手を振りながら屋敷に入って行った、ケイは首を傾げつつも、バイクを発進させた。


 ケイの用とはクロエホタルのマンションへと向かうことだった。住所はギルドで調べてある、街周辺に近づくと隕石落下の影響が見て取れた、修復中の家や道路、折れたままの街灯など結構な被害だ、放射能は数日で問題なくなったので避難した住民の一部は戻って来ている。


「クロエの住まいはノナさんの神社の近くだったのか…」


 ケイは一旦神社へと向かった

 参道入り口の階段はバリケードが張られ入れないようにされている、乗り越えるのも厄介な程に厳重だ。

 そして、そのバリケードに掲げられているボードには、”除染対象管理区域、国防院衛生管理局”と表示されていた。

 裏に周れば車両が入れる道があるはずと、ケイはそちらへバイクを走らせたが、やはりそちらも鉄門で閉じられていた

「だよな、カギが掛かってるか…」

 ケイは再び、参道へと戻る


 バイクを止めて降りると、辺りを見回し高いバリケードの壁を駆け上がるように飛び越えた。

 境内は暗い、明かりが落とされている。本宮殿は屋根瓦が落ちているが、無事のようだ、屋根はブルーシートで覆われ修復中で足場が組まれ脇に資材が置かれている。

 ケイは社務所を見た、ノナが住まいにしていた社務所は既に解体され、更地にはなっている。建物があった位置には木杭とロープが張られている、どうやら建て直すようだ。

 その先、1番大きな隕石が落ちたとされている所を見に行くケイ。

 そこは見晴らし台になっていた場所、ケイも時折来ていたので、その景色は良く覚えている、街が見渡せる良い場所だ。しかし、見晴らし台は跡形もなく崩れていた。

 風雨でこれ以上崩れなよう何枚もの養生シートに覆われている。

 ヒガアユムの話では、クロエホタルはあの隕石落下の日、ここに居たと言っていた、そう言って携帯端末情報を見せてくれたのだが…そんな記録情報は確認できなかった。彼は誰かに消されたと言ってはいたが…

 アユムが嘘をついているのか、クロエホタルが嘘をついているのか、現時点ではわからない

「だけどアユムが嘘をつくメリットは…ないよなぁ、もしノナさんの見た行方不明の女子学生が、クロエホタルなのだとすれば…今のアイツは誰なんだ?」

 ケイは神社から見えるマンションを見た、ホタルの居住マンションだ、上階が一部破損しているのが夜でもここから確認できる、全室明かりはついていない、住民は全員避難したままだと聞いているので無人のはず。ケイは神社を後にし、マンションへと向かった


 バイクをマンションの外れに止め、黒いジャケットを羽織り、目だけがレンズのようになっている顔を覆う黒いマスクをする、マスクは暗視ゴーグルにもなっていて、無線通信および網膜投影であらゆる情報が映し出される携帯端末にもなっている。ギルドから支給されたハイテク装備品だ、入口へ行くと玄関ホールは明かりがついていた、遠くから見る限り管理室に誰かいる、おそらく防犯のため警備員が常駐しているのだろう、防犯灯はついているし、当然防犯カメラも動いているはず。ケイは周囲を確認しマンションの入り口ではなく反対面へまわり、壁面に取り付いた。ホタルの部屋の位置を確認する、場所は9階、彼は壁をするすると上り始めた。取っ掛かりの多いマンションなので登りやすい、一旦一つ上の階まで上がり、ベランダを移動する、ホタルの部屋の上のベランダから逆さまになって中を覗く、明かりのついていない部屋には誰もいない、気配も感じないし、熱反応もない、しかし、バルコニードアが何故か空いている


居るのか?

 ケイはくるっと回りながらホタルの部屋のベランダに音もなく降り立った。


「(女子部屋に侵入って、後ろめたいよな)」

 と声に出さず思う。

 人の気配はやはり感じないが、その気配を一切させないホタルだ、念のため暫くそのまま耳をすまし待機する…呼吸音などは聞こえない、ケイはスルッと部屋に入った


 暗視ゴーグル越しに部屋を見て周り、デスクに目が止まった。

 マスクを上げ、小さなミニライトをつける

 デスクの上に画面のヒンジがへし折れ、キーボードが物理的に壊れたラップトップPCがある、それを見て訝しむケイ、試しにスイッチを押すがなんの反応もない、その横に、半分溶けたようになり、ひしゃげた携帯電話が置いてあった。


「これって…」

 ケイはそれを見て確信する。溶けた眼鏡と様子が一緒だ。


「神社にいたのは間違いなさそうだな」


 ふと、視線を上げると壁の写真が目についた、何枚か写真が貼られている、カスミ達と一緒に撮った写真もある、天文部の部員達と撮ったと思われる写真、そして小さい頃の写真もある、どれも笑顔で写っている、アユムと2人だけの写真もあった、少し恥じらうような感じで、それもやはり笑っている


「こんな顔すると普通の女の子だよな…本当に同じ人物なのか?」


 ケイは学校でのホタルを思い出す、表情のない無機質な顔、冷めているというより、心がないという感じだ、もう一枚の写真、それは母親との写真だ、ギルドで見たのと同じ人物、まだ幼い頃のホタルが母親の腕に手を回し、満面の笑みで笑っている…しかし、その写真は不自然な構図だった、よく見れば母親とは反対側にも誰かが写っている、ホタルは其方にも腕を回していて腕だけが見えるがその先の写真は破り取られていた。その破断面をなぞるケイ、最近破られたモノではない、だいぶ古い。

「クロエリョウジ…か」

 呟くケイ、その時だったハッとして玄関を見た、足音がする、ガチャリとドアノブが動き誰かが部屋に入って来る。


入って来たのは、ホタルだった。


 ホタルは部屋に入ると空いているバルコニードアのカーテンが揺れているのを見て、靴も脱がずに足早にバルコニーへ向かう、外に出るとバルコニーから身を乗り出し下を見て、左右を見る、そして上を見た…誰もいない。

 ケイは咄嗟にベランダへ飛び出し、すぐ上の階のバルコニーに上がって、息を殺し、仰向けで寝そべっていた。

「(あっぶねー)」と心の中で呟く、心音で気づかれるかもと思い、いつでも動けるようにした、しかし、ホタルの足音が部屋に戻って行き、パっと部屋の電気がつく。

 ケイは暫く経ってから更に上階へ移動し、ホタルに悟られないようマンションを降りた


「ほんと、気配がないよなアイツ」


 ケイは念のため、重いバイクを押してだいぶ離れてから、マンションを後にした

 …


 そこは広大な学術院内の敷地の一画にある古い建物、旧ダム管理棟

 壁や床の内装は剥がされ、窓も枠ごと外され、コンクリート地が剥き出しになっている。

 建物にたむろしている男7人、いづれも高等部の制服を着ている。


「なんだとコミネ!?、もういっぺん言ってみろ!!」


大柄な生徒は、ヒョロリと長身の男子生徒の胸ぐらを掴んだ。


「お、俺も寝耳に水だったんですよ!、タドコロさん!」

「生徒会長がそう言ったのか?」

「い、いや、呼び出しに出向いたら、カンパニー審議会の役員が雁首揃えていて……」

タドコロと呼ばれた男子生徒は、長身の男子生徒から手を離した。

「クソっ、忌々しい」

「こ、これが通告書です…」


タドコロはコミネから差し出された文章を奪いさっと一読すると、怒りに眉根をよせ、コミネにつき返した。

「読め」

「え?」

「皆の前で読んでやれ」

コミネは視線の集まる中、文章を読んだ。

「……カンパニー『フーリガン』は、カンパニー憲章から著しく逸脱した行動を度々起こしており、他カンパニーとのトラブル、および生徒に対し過度な斡旋、勧誘も散見され、問題であると判断した」


タドコロはギリっと奥歯を噛み締めた。


「…よ、よって、カンパニー審議会は『フーリガン』を除名処分とする。なお、本除名は失効猶予1ヶ月を設け、異議申し立てを受付る、……以上、です……」


「ふざけんな!!」


タドコロは、コミネの持っていた通告書を再び奪い取ると、破き、丸めて地面に投げ捨てた。


「あ、あと、それと…」

「まだなんかあんのか!?」

「俺たちが拠点にしてる、このダム管理棟、来月に取り壊されます」

「なんだと?、それも奴らが言ったのか!!」

「老朽化で危険だからと…」

「居場所まで奪おうってか」

「そうじゃないと思いますが……」

「俺たちの活動を邪魔してんのは、生徒会とフリーダムじゃねーか!!、そうだろ!、コミネ!?」

「いや、俺に言われても……」

コミネは、理不尽な不満をぶつけられ困惑した。

「フリーダムは、いつもいつも俺たちの邪魔をしやがる」

「してないと思うけどな……」

コミネはボソリと呟いた。


「クソ、おいヒロ!、おまえ生徒会長にコネ……って、なんだその鼻?」


鼻にギプスをしたヒロはタドコロをチラッと見るが目を逸らした。

「あ、コイツ、女にちょっかい出してこうなったらしいゼ」

 と角刈り男子学生が言った

「また男のいる女に手を出して殴られたのか?、お前アホか?」

別の男子生徒がそう罵る。

「うるっさいな」

「違う違う、その女にやられたんだよヒロは、駅前の喫茶店でだよな?」

「どんな怪力女だよ」

仲間達が笑う。

「駅前って、学院の奴なのか?」

とタドコロ

「昔馴染みというか、知り合いというか……俺はただのスキンシップのつもりだったんだよ、……肩に手を回しただけだ」

「手を出してんじゃねーか」

「そんなの範疇に入るもんか。だからって、いきなりだぞ?、テーブルに顔面打ちつけらて、やられた俺も気がついたら鼻の骨が折れて鼻血流してた…」

「うわっ、マジか」


「ヒロ、そいつはなんて名前の奴だ?」

「……」

ヒロは黙り込んだ。代わりに、角刈りが説明する。

「この間ウワサになった奴ですよ、2週間ぐらい行方不明になってひっょこり戻って来たっていう、タドコロさんの弟と同じクラスの、…たしかクロエ某しとか?」

「クロエホタルか?」

タドコロが聞き直す。

「ああ、そんな名前ですね」


「クロエホタル、そうか…」

タドコロはニヤリと笑う。

「おいヒロ、とりあえずその女を連れて来い」

「は?、なんでいきなり」

「いいから連れて来い」

「連れてきて、なにをする気だよ

「…別に危害を加えようってわけじゃない、うちの契約スポンサーが、その女に興味があるらしい」

「スポンサー?、あのイベント会社の?」

「そうだ。ま、クロエホタルをスカウトしてやるって話だ」

「…スカウト?、なあタドコロ、あの会社なんか変じゃないか?」

 

「何が変だ、俺達のスポンサー様だぞ?、資金を出してくれてる、何が不満なんだ?」

「…なんの見返りもなく金だけ出すスポンサーなんて変だろ?」

「俺たちに対するスポンサーの先行投資だって言っただろ?」

「なんの先行投資だよ」

「そのうち話してやる、黙って従え」

「……」

不満げな顔をするヒロに、ケンイチは苦笑した。

「いいかヒロ、これは足掛かりだ。もっと大きな話もあるんだ」

「それも言えないのか?」

「ああ今はな、時期が来たら話してやる」

 ヒロはため息をつくとタドコロの腕に視線をやる

「…それと、お前のその腕の入れ墨は何なんだよ?、それもスポンサーと関係あるのか?」

ヒロの指摘にケンイチは腕を捲って彼に見せた。

びっしりと、肩の方から手首近くまで、文字と模様が描かれている。

「コレは入れ墨じゃない、まじないみたいな物だ、まだ途中だがな、完成すると自分の能力を最大限に引き出す事ができるらしい」

「まじない?」

「ああ、そうだ」

 タドコロはニヤリと笑ったが、そんな彼に対しヒロは益々不安になり眉根を寄せた。

「なんか違うんだよな…」

 ボソリと呟くヒロ

「ヒロ、とにかくその女を連れてこい、コレは命令だ」

「ああ、わかったよ」

ヒロはしぶしぶ承知した。

「それで、カンパニーの方はどうすんだよ?、異議申し立てするんだろ?」

「いいや、もういい、ほっとけ」

「はぁ?」

「考えてみたら、別に学院カンパニーに加入していなくても、スポンサーがいれば俺達の活動に支障はない」

「……なんだよそれ、カンパニーあってのフーリガンだろ?」

「いいや、旧態然としたカンパニー制度など糞食らえだ、コレからは新しいカンパニー制度を俺達が築くんだ」

「マジで言ってんのか?」

「大真面目だ、それにもう一社からもオファーが来てるしな、外資系の大手製薬会社だぞ」

ケンイチの言葉に、フーリガンメンバーが騒ついた。誰もそんな事を聞いていない。ヒロも驚きを隠せないでいる。

「おいケンイチ、なんだそれ聞いてないぞ?」

「ああ、今言ったからな」

ヒロはコミネを見た、コミネはタドコロケンイチの秘書兼参謀的役割を担ってる。会計も彼だ。当然知っていると思っていた。


…しかしコミネはタドコロの後ろで首を横に振った。


「…ケンイチ、フーリガンのリーダーは確かにお前だ、だがこれは勝手が過ぎるんじゃないのか?、俺達に相談は無しか?」

「相談した所で、決めるのは俺だろ?、俺がスポンサーを見つけて来たんだ、フラフラ女のケツばかり追い回しているお前と俺は違うんだよ」

すると角刈りが、拍手した。

「そうだ、タドコロさんの言う通りだ、なあ?」

「ああそうだな、スポンサーを引っ張って来るとか、さすがケンイチさんだぜ」

「俺たちもやることやらないとな」

メンバー全員が拍手しだした。ヒロを除いて

「お、おいお前ら……」

「ヒロ、不満ならうちを抜けてもいいんだぞ、俺の弟、ケンジみたいにな」

ケンイチがニヤリと笑う、ヒロはため息をついた。


……


「レポートは来週までに提出する様に」


 先生はそう言って教室を出て行く

「はあ、終わった」

伸びをするカスミは、ホタルをチラッと見る

 アユムがしきりに話しかけているが、彼女は我関せずと言った感じで聞いてもいない。

 さっさと荷物をまとめ教室を出て行こうとする、すると入り口外にカセヒロの姿を見つけ、カスミは慌てて立ち上がると、ホタルの所へ行く。

「待ってホタル」

「何だ?」

「カセヒロがいる」

「認識してる」

「たぶん呼びだしだよ?」

「私に用はない」

「いやいや、ホタルー」

「おいお前達、なんかトラブルか?」

 2人の後ろからタドコロケンジが声をかけた

「た、タドっちゃん…いえなんでも…」

 カスミはそう言うが、ケンジは廊下に視線を送った。

「ヒロ先輩か、と言うことはフーリガンだな」

「う、うん」

「何したんだお前たち?」

 カスミはホタルを見た、ホタルの件は隠し簡単にいきさつを説明した

「わかった、オレが気を逸らすから後ろの準備室から出て帰れ」

しかし、ホタルは……

「必要ない」

とケンジに返した。

「オレがあるんだよ。悪いんだがオガミ」

「はい?」

 ケイはそれを後ろから黙って見ていたが、いきなりタドコロに呼ばれ驚く。

「彼女達をエスコートしてくれないかな?」

「なんで俺?」

「クラスメイトだろ?」

 とタドコロが笑うと、ケイもふっと笑った

「そう言われると、嫌とは言えないか…」

 と言って席を立とうとしたケイに、ホタルが

「貴方も必要ない」

 と、冷めた目で見下すように言った。

「そう言うなよ、クロエさん」

 ケイは肩をすくめた。


 ケンジが先に廊下に出て行く。

 カスミはホタルの手を引くと教室後ろの準備室に入って行った、ケイは教室後ろの扉から廊下へと出る。


「どうもヒロ先輩」

「お、おうケンジ君」

「どうしたんですか?、2学年まで来るなんて、俺に用ですかね?、それとその鼻どうしたんです?」

 ケンジに矢継ぎ早に話しかけられ、ヒロはたじろいだ。

「ああ、これはちょっと転んじゃってね、それに俺の用は君じゃないよ」

「なーんだ、兄貴に呼ばれたのかと思いましたよ、ははは」

 ケイはそのやり取りを横目で見ながら準備室の扉の前に立ち、出てきたカスミとホタルの影になるようにして、3人で教室を離れた。


「カスミちゃんと、クロエって子に用があるんだ、いるよね?」

「ザイゼンとクロエか、いたかな?」

 と言ってケンジは教室に顔を向ける

「いやー、もう帰ったみたいですよ?」

「は?」

 ヒロはケンジを押し除け教室に入る、授業が終わるのを待っていたのだ、いないはずがない。

 しかし、ホタルとカスミの姿は教室にはなかった。

「ヒロさん、チームフーリガンが、か弱い女の子を虐めちゃ駄目ですよ」

「お前…」

 ヒロはケンジを一瞬睨んだが、すぐに顔を緩めると、何故かため息をついた。

「ヒロ先輩、兄貴にもそう言っておいてください」

「ああ、そうだねぇ」


 カスミとホタルを駅の改札まで送ったケイ、改札での別れ際に

「ありがとう」

とカスミにお礼を言われた。対してホタルはケイに目も合わせない。

「クロエさんは感謝してくれないのかな?」

「必要ない」

「ホタル、それはないよ…」

「今回の事案は私1人で十分対処でき……」

「クロエホタル」

 ホタルの言葉を少し語気を強めて遮るケイ

「なんだ」

「俺は君らの事情は知らないし、お前が何考えてるのかも知らないけどな…ザイゼンさんを巻き込むような真似はするなよ」

「巻き込むとはなんだ?」

ケイはクイっと、アゴを動かしカスミを見ろと無言で示した。

 ホタルはカスミに視線を移した、彼女は心配そうにホタルを見つめていたのだ。

「……彼女もトラブルの対象という事か?、そう言う事になるのか?」

「俺にはそう見えるぞ」

 ホタルは目を逸らし少し考え込む、そして顔上げると

「…貴方の意見は正しいと判断する、オガミケイ」

「わかればいい、じゃ2人共気をつけてな、クロエさんよ、ザイゼンさんをちゃんと家まで送ってくれよ」

「…了解した」


 ケイが教室へ戻ってくるとケンジが待っていた

「エスコートご苦労さん」

「いやー突然振られたから焦ったよタドコロ君」

「悪かったな」

「ま、クラスメイトだから当然だよ、な?」

 ニヤっとケイは笑う

「言うね」

「…ところでフーリガンって、なに?」

「知らないのか?」

 肩をすくめるケイ

「そうだな…ここ本院にはいくつかカンパニーと呼ばれる学生主体の事業みたいなのが沢山あってな……、まぁそのうち6割ぐらいは、組織とか結社と呼ばれる派閥的な意味合いの方が一般的だな。フーリガンっていうのはそのカンパニーの1つだ、今のリーダーは俺の兄貴、タドコロケンイチ」

「兄貴って本当のお兄さんなのか?」

「ああ、フーリガンってカンパニーの中でも比較的古参なんだ、兄貴が2年前についでな、俺も加入してた、だけど方向性の違いというか、意見の相違で俺は抜けた」

「教室に来てた鼻サポーター人はそのメンバーか?」

「ああ、あの人はカセヒロ先輩、兄貴と同じ第4学年だよ」

「なんかチャラいと言うか、ヤサグレてると言うか、そういう組織なのか?」

「フーリガンなんて名前だがな、結成時はそうじゃなかったんだ、元々はスポーツ振興とでも言えばいいか、そう言ったイベントとか、エクササイズ道場的な事とかしてたんだよ、だけど兄貴がついで変わっちまった」

「ふーん、今日はまあいいとして、明日も来るよな?」

「来るだろうな、オレがここにいる限りはアイツらも手出しはしないだろうが…」

「俺を選んだのは、新入りだからかな?」

「顔もまだ知られてないだろうと思ってね、すまなかったな」

「いや、でももう目はつけられたな」

「え?」

 ケイが目を廊下に向ける

 そこにはカセヒロと、ほかに仲間らしき者達が待っていた。

 …


 ケイは、フーリガンの彼らについて行く

 タドコロケンジも同行すると言ったが、カセヒロがダメだと言い許さなかった。、

「話しをしてくるだけさ」と言って、ケイは笑って教室を出て行った。


 そこは高等部校舎の敷地裏


「またここかよ…」


 そこはケイが、最初にクロエホタルに地面を舐めさせられた場所だった。

「あ?」

「いやなんでもない、で?呼び出された理由はわからんでもないんだけど、アンタらのリーダーには合わせてもらえないのかな?」

 ヒロが何か言おうとしたが

「バカか、お前はこれからここで俺たちにされるんだよ!」

 別の角刈りで細面、警棒をもった男子学生がそう答える

「サヨで」

「まあ、俺たちに舐めた真似してくれたんでね軽くそのお礼をしてやるよ」

「それはどうもご丁寧に」

 サックに警棒にバット、カセヒロは木刀を持っているり

「ナイフとか銃とか出してこないだけまだマシか」

と笑うケイ

「なにがおかしいんだよ!」

角刈りが怒鳴る、そんな中、カセヒロ1人だけが気乗りしない顔をしているのが、気にかかった…


「おい!聞いてんのか!」

「あ、すいませんね、先輩方のがどんなものか、考えてしまいまして…」

と、わざと煽って見せた

「なに?」

「おい、まず俺にやらせろ」

 と言って両手にサックをつけたもう1人の男がニヤニヤしながら前に出ると構えた

「拳闘か」

 よく見れば、彼らはカセヒロ含めチンピラという感じではない。


 体格も良く、体幹も良い、それなりに武術をやってきた者達だとケイは見た。


 サックの男子学生は姿勢を低くし踏み込むとジャブを打ってくる、ケイが右手で円を描くようにその腕を絡めると男はくるっと前転し背中から落ち、あっさりと気を失った。


「な、なにしやがった!?」


角刈りが怒鳴る

 肩をすくめるケイ

 それを境に、ヒロ以外が一斉飛びかかった、が…

 全員あっと言う間に地面を舐める事になった、相手の動きに対し一拍での返し、合気に似てるが、どちらかと言えば柔術だ、ヒロは驚いていた。

「ヤレヤレ、みんな、それなりに腕が立つんだけどねー、お前さん武術ができるようだな」

とヒロが木刀を正眼に構える

「カセヒロ先輩だっけ?、あんたは剣術……いや剣道ですか?」

 ケイはそう言って、落ちている警棒を拾う、そして右半身を引くと警棒を左手だけで正眼に構える

 ヒロはそれを見てゾッとした、ケイの構えにまるで隙がない、それどころか威圧感が凄い。

 ……しかしヒロは深呼吸をすると右半身を引き、木刀を垂直に立て構え直した。

ケイはそれを見てニヤッと笑う

「へぇ、蜻蛉の構え、示現流、ニノ太刀要らずってやつか…初めて見た」

 ヒロがカッと目を見開く。


「キィエエイッ!!」


 猿叫と呼ばれる奇声を上げケイに打ち込んできた。


 カァん!


 木を打ちつける音が辺に響く、しかし、カセの手から木刀はなくなっていた。

 その彼の首元に突き付けられている警棒の先端、ケイはほとんど動いていない。

 始める前と同じ構え、ヒロの木刀は遥か後方を飛び、地面にカランと落ちた。

 後退り尻餅をつくカセ

「な、なんなんだよ、お前」

「うーん、先輩、練習不足っすね、全盛ならこんな貧弱な棒切れじゃ、コッチが折られてましたよ」

 ケイはニコリと微笑みヒロに右手を差し出す

 その手を見てヒロは握り返した。

 ケンジは建物の影でその一部始終を黙って見ていたが、ふと笑うと立ち去って行った。


 つづく


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る