第5話 ふるさと

「ふるさと」


幼いころに見た

冬の景色です


鉛色の空と

荒れ狂う海と

からからと

暴れる木枯らしにさらされて

希望さえ芽生えませんでした


人の気配を潜めた

低い軒並みに灯る

頼りない白熱電球だけが

痩せこけた樹木を

寂しく照らしていました


二度と戻るまいと

大嫌いだった町を飛び出し

父と母を見捨て

自分勝手に突っ走って

意気揚々と

見せかけの華やかさに身を包み

砂上の虚栄に気づかず

夢破れて挫折し

何もかも失って

舞い戻ったときでした


故郷の海は

暖かかったのです


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