トライアングル捩じってメビウスに輪にしてみた
関係を誤解されたくないからだ。勇気はあくまで男心な設定。だけどノンケだ。もしゲイカップルだと思われたら二人の関係は壊れるだろう。
そんな中、
「ねえ、僕たち、付き合ってもいい?」
教室でヤキソバパンを頬張っていると後ろの列からそんな声が聞こえてきた。
気のせいかと振り向くと、知らない男子がキャッキャウフフしている。
「や、やだよ~」
「こんな良い人、めったにいないぜ…」
どうやら告白を躊躇っているようだ。
勇気は彼らと目が合ってしまった。
「お願いします、、」
彼氏たちからの懇願だ。
頭をさげられては勇気も断りづらい、
「友達としてならいいよ…」
とOKした。男子たちの背後を直哉がよぎる。
(ごめんね、二人っきりになれる場所を探すね)
勇気は罪悪感でなくむしろ直哉の為を思った。
(これは浮気じゃないよ。カムフラージュだよ。)
こうして不倫よりも希薄で仲間意識よりも濃い関係を広めた。
そこには勇気でなく有紀に対する憧憬が隠れていない。
男子二人組から交際を申し込まれて一週間後。総合格闘技部長の黒井に迫られた。場所は体育館の裏。
「お前、本当は女だろ」
いかつい猛者たちに囲まれる。
「心は男性だなんて嘘だろ」
黒井がスマホアプリを開いた。盗撮された勇気の横顔。その目線がサーチライトのように朝礼の列を探る。そして直哉にロックオンした。
「本命は太田だろ。よくも裏切ってくれたな」
今にも飛び蹴りに会いそうな彼女。
だが彼氏たちが勇気を救い出そうと動いた。
しかし多勢は少数精鋭の前では無勢。総合格闘技の猛者に正攻法は不要。
「通報しちゃうけどいい?」
「何っ?」
黒井はスマホを取り上げようと彼氏達に襲い掛かる。しかし、その光景を別動隊がばっちり屋上から撮影していた。部員たちはピタッとその場に凍り付く。
「いいよ。職員室に連れてけよ。水科の不倫もバラシてやんよ」
黒井は開き直った。火花を散らす膠着状態。
「水科、助けてやってもいいんだぜ?」
屋上から助け船が投げ入れられた。
そこには一縷の望みをかけるしかない。
「受け取ってください。本当に、よろしくお願いします。」
あの二人組からもお願いされる。
男子ってわからない。勇気は直哉に一途だった。その裏切り行為をどうして許せるのだろう。
「はい、、、。いいのかなぁ」
良心の拒絶。しかし有紀が首を縦に振る勇気ひとつで血の雨を回避できる。
「いいよ。私、、私はみんなの彼氏だもん。」
「はい、、。」
彼氏たちの了承。
「ありがとうございます。」
こうして水科勇気はセーラー服を着ることになった。髪も少しずつ伸ばしている。肩に届くようになったころ、校舎の近くを偶然通りかかった。
直哉は今も元気で通っているだろうか。新しい彼女は出来ただろうか。自分が退学して正解だっただろうか。
色々な思いが駆け巡る。季節は走馬灯のように流れて就活シーズンが到来した。
「ごめんね、私、群れるキャラじゃないから! 一緒に遊べる子いないの」
新入社員研修の帰り、合コンの誘いを断り、一人吞みしようとバーに立ち寄った。
そこでおとなしそうな派遣社員と相席になった。
「お仕事お忙しいので無理です」
最初は彼の誘いをあしらっていた。
アルコールが進むうちに会話は滞り、時も淀んだ。
カラン、とグラスの氷が鳴る。
会話にならぬ会話の繰り返し。
「そっかぁ……」
「…………」
ぬるぬると時が過ぎて終電間際になった。
「もう、遅いので失礼しますね」
有紀は席を立とうとする。
「……」
相手はとろんとしている。
「そう、それじゃ、おやすみなさい」
勇気は自分の伝票を手に取る。
「あっ?!」
それを彼がひったくった。
「いいんです。自分で払いますから」
有紀が奪い返す。そして、絶句した。
「え……」
男はそこに一万円札を乗せた。
「ごめんなさい」
奢ってもらう理由はないので自分の財布から一万円札を抜いて返した。
「いいんです。僕の方こそ、貴方に借りがある」
男は自分の財布をテーブルに広げた。
「はい、これ」
名刺を一枚、そこから取り出す。
「えっ?」
その社名に有紀は目を丸くする。
(株)太田直哉商店営業部。
「あ、あ、ちょっと、そんな」
彼女は何も話せない。まさか、こんな場所でまた会うなんて。
「お願いします」
男は頭を下げた。
「はい、、、、。」
思わぬ告白。
こんな思い上がり者みたいな女と付き合いたいなんて、
しかし、直哉の遠回しな紹介によって有紀は一児の母となった。
そして、営業部で社長夫人にこきつかわれている。
直哉の選んだ相手は典型的な尻に敷くタイプだ。
有紀は彼氏に告白しなければ良かったと後悔した。
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