シャッターの降りた未来~黒い穴の先で待ち受ける、狂気と恐怖の掃除戦争! 世界停電後の教室で起きた異常現象に挑む、言霊使いの弟子たちの壮絶なバトル!

水原麻以

SHUTTERED FUTURE

世界が突然停電した。夜よりも暗い闇に閉ざされ、全てが無に帰した。


痛みと吐き気、そして激しい眩暈に襲われた。我慢できず膝をついた。そのままたちくらみがして転がり回る。頭が割れそうだった。


「どうした?」


心配はありがたいが、謝意はすべて嗚咽になってしまう。しばらく片頭痛のように転がった。家具の縁に額を当てると、ひんやりした感触が少し心地よかった。やがて痛みが引いてきて、喋る気力が回復した。


「……ここ、」


思った以上に苦しい。もう、息ができない。そして目の前に暗い穴があるように感じた。目が開かない!


「おい、大丈夫か?」


背後に重いものがある! 腕と足がもげそうだ!慌てて振り返ると、背後の窓から明かりが漏れていた。


「おい、大丈夫か!早く、部屋から出ろう!」


この部屋にいるのは私と先生だけのようだ。


「先生…」


「大丈夫か?」

「あ、はい、ありがとうございます…」息が詰まるようだった。全身が重く感じられた。

窓にはカーテンがあったが、暗い穴のようなものが部屋を照らし出していた。


「それより、これは一体なんだ?」と先生が問いかけた。


「え…? ええと、多分、お祓いの後の…掃除、っていうか…!」


「ここが、?」と先生が声を裏返らせ、鬼のような顔をしていた。


「な…!」と私が口を開こうとしたが、先生に睨まれて黙り込んだ。


「俺が知ってるわけないだろう。お前、掃除をしただけなんだぞ。お前が言う『お祓い』なんて、そんな危険なものではない。お前たちの言うことは、そういう意味だ」と先生が厳しい口調で語った。


「でも、私…何もしてない」と私は反論した。


「お前は…では聴くが、『物を片付ける』とはなんだ。そういう時は『片付ける』だろう?」と先生が言った。


先生は言霊使いの中でも、実戦経験豊富な数少ない人物だった。二十年前、異界軍との命のやり取りを経験していた。王国軍が崩壊寸前の中、敵を舌鋒で打ち砕いた。


だから、私たち弟子には厳しく当たっていた。些細な言葉遣いにも厳しい。


「は? いや、私そんなつもりなんてありま…」と私が言いかけたが、先生に遮られた。


「あれ、知らないんだったか? 掃除と片付けは全然違うんだ。『片付ける』は『片付け、する』なんて言うのが大半だが、実はそうでもない。『掃除』とは掃き除くことだ。動作が全然違う。『片付け』は『片付け、する』んだぞ」と先生が説明した。


私たちの話の内容が何だったのか、私には理解できなかった。

「さっき俺がお前に言ったことは、これでいいだろう」

「はい、わかりました。……それで、先生、その『片付ける』とは何なんですか?」

そう聞くと、先生は少し考えた後、「ああ、やっぱり、そうか」と言って、私から視線を外した。

「つまり、ここにいる限りは『片付ける』んだ。現状、俺も、お前みたいに、物が溜まっている場所に行けないわけだが、今なら、その溜まっている物を見つけることが出来る」


先生は部屋の中央に浮かぶ黒い穴のような物に歩み寄った。こいつを文字通り片付けないと先生も私も帰れない。お祓いの副産物を放置すると王立アカデミーの権威と魔導軍が総がかりになる危険があるからだ。初動を怠ったバル王国は魔族の群を召喚してしまい滅んだ。それにしても追試対策がどうしてこうなった。私はお祓いのひっかけ問題に嵌まり欠点を取った。ただそれだけだ。

居残り授業の課題は難易度が一気にあがった。

『祓う』という言霊が壊れて、整理整頓の主体や客体、そして行為という要素に分解した。


そして何が問題かというとピースを探してパズルを完成しなくちゃいけない。


私が状況をまとめると先生の表情が和らいだ。

「なるほど。よくできました」

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