真実

しかし、お客様が神様とは限りません。

時には耳を塞ぎたくなります。早速、そのような客層が現れました。パリピでチャラいお二方です。


「ねぇ、あれ何? キモイ」

「顔? 人面? 確かにきめぇな!」

「ねぇ、真実の口って書いてあるんだけど?」

「なになに? 古代ローマの? ふむふむ…なるほど。おもしろそーじゃん」

「やめようよ。呪われそう」

「大丈夫だって。ただの機械だろ。ほら、百円は俺が払うからさ。ここから手を入れて」

「やだ。こわい」

「いーじゃん。こんなの絶好のインスタ映えだぜ」

「そーぉ? いいね!の数が爆上げするかな?」

「するする。一瞬で5万ぐらいつくって」

「じゃ、やっちゃおか!」



そうです。もうおわかりでしょう。


わたしは「真実の口」

ボッカ・デラ・ベリタ。 ローマのサンタ・マリア・イン・コスメディン教会に埋められている石の彫刻です。

わたしの容貌はオケアノスという海の守り神を模したもので、口に手を入れた者の邪心を見抜くと信じられています。

伝承によると、悪人の手首を噛み切ったそうでございます。


しかしながら、それはとおいとおい昔の話。

現代のボッカ・デラ・ベリタは温厚で安全第一そのものです。


非接触型の光学スキャナーであなた様の手相と静脈を読み取り、最新の深層学習に基づいた健康状態から運勢をはじきだします。

プリントアウトした結果は的中率、脅威の99・9989%!


「きゃーーー! らぶらぶシンクロ率120%ですって!」

「うそぉくせえええ! 草生える」

「でも、当たってるかも、これ」

「を? ……すげええええええええええええええええええ!」



ご利用ありがとうございます。末永くおしあわせに。



でも、わたしは心残りでしかたないのです。

しあわせ一杯のおふたりにお伝えする事ができない。衝撃の真実。


ああ、わたくしに正真正銘な「真実の口」さえあれば。



本当のことがいいたくてもいえない。これがわたくしの不幸でございます。


あなただけに、そっと打ちあけましょう。


貴女がさしれた、わたくしの口。


下水道の蓋なんです。

そう、そもそも真実の口はマンホールのカバーだったんです。私はその模造品。

下水道から吐き出されたお告げに喜ぶバカップルぇー!!

やあい!!!!ざんまぁあああああああああ!!!!!!


ふーっ、すっきりした。









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