バーソロミュー~星降る倍角の出版社創業物語
水原麻以
星が降らない
そろそろ梅雨が明けて雲の途切れから見える月、あるいはすっかり晴れ上がった夜空にお徳用グラニュー糖袋をぶちまけた様な星。
末永く尾を引く光に今度こそはと良縁を願う人、永遠の愛を託す夫婦、内定取り消しのリベンジを、持続化補助金の支給に老舗の命運を繋ぐ人。
必死の想いで星を探してる。
それなのに星が一つも輝かない。心の内にブラックホールを抱えている人もいるだろう。
ああ、それなのに、それなのに。
「星、星が降らないの。いや、降るほどでもないけどさ、一個くらい飛んできてもいいんじゃない?」
ツヅリは0が並ぶリストの前で突っ伏した。これが成績表なら励ましの言葉がこんこんと湧いてこよう。しかし、学業でもなく明確な点数がつけがたい芸術の結果は月並みな言葉では癒しづらい。
「ブックマーク0.アクセス0、評価(☆)0って誰でも通る道だよ。投稿した瞬間はみんなゼロだよ」
陰湿なパワハラで会社を辞め、やっと見つけたバイト先は自粛の要請に従わない名前公表とやらで潰れた。
「もうわけわからないよ」
飲んだくれて泣きわめく姉を部屋から放り出すわけにもいかず、特養に入所中の両親に迷惑をかけることも出来ず、「密になるので来ないで下さい」という役所に相談するわけにもいかず、苦肉の策がこれだ。ものの見事に裏目に出た。
そんなツヅリも最初のころはハロワや就職説明会に通っていた。派遣会社を3つ、個人経営の店を2つ受けてどれも見事に玉砕した。
「きっと、やり方が悪いんだよ」
代美の勧めもあってハロワに再び日参した。就職相談窓口では丁寧に応募書類の書き方や面接のコツを教えてくれるところもある。しかし、それも一週間でついえた。
「ありきたりな事しかいわないじゃないの!」
バァンと筆記用具が床に散らばる。
「だから、その当たり前が出来てないからじゃない」
ツヅリは履歴書を拾い集めた。丸文字じゃなく読みやすい楷書体だ。自己紹介文も飾りすぎず、言葉足らずでもなく、無難なテンプレだ。お役所仕事としては平均点。これ以上、どこをいじれというのだろう。代美は少し言い過ぎたかなと反省した。そして、謝ろうとした瞬間、かんしゃく玉が爆発した。
「全然、話が違うじゃん!」
「…」
「言ったよね?ハロワは職業を安定させるのが任務だから、失業者を減らすことに万全を期す。失業給付金も打ち出の小槌じゃないから、ハロワ職員も必死に求人探してくるし、サポートもばっちりだって。なのにこの結果はなに?」
売り言葉に買い言葉で代美は脊髄反射した。
「高校中退でこれといった学歴も資格もなく、平々凡々な業務がアウトソーシングや機械に代替えされるなか、スキルアップ神話が唱えられ続けてバブル崩壊から数えること数十年。高付加価値商品が売れなくなったように高度人材を必要とするほど専門的かつニッチな能力は必要されなくなったのです。そして時代はAI。長年にわたり培った経験も深層学習されてしまう。当然の帰結だわ」
「もういいよ!あたし、負け組になる!!」
こうして、代美は汚部屋の岩戸を閉ざしてしまった。
星は届かない。
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