無垢白書
水原麻以
STEP:1
閃光と衝撃と顔面蒼白と銀世界が同時に降って来た。
アラームが酸素不足を訴え続け、あたり一面に霧が充満する。
「気閘が大破。漏出が止まりません」
通信士の茜が慣れない手つきでドローンを操る。37度に傾いた床は装輪式にとって断崖絶壁だ。履帯が空転して粉塵が拡散。視界が余計に濁る。天井が崩れて肋材がむき出しになっている。バキバキに割れた基盤の渓谷を同軸ケーブルが蜷局を撒いて下っている。
「酸素だ。非常用エアを解放しろ!」」
蒲生船医が腹ばいになって船長の脈を採っている。あるわけがない。パネルに胴を両断されてる。
「あたしが結界を張ります。フル圧で注入してください」
綾はこんな時でも冷静だ。百戦錬磨の魔導士は未踏の地でも逞しい。
そして僕は魔術と科学の共闘に迷信戦争の終焉を確信した。人は手を取り合えるのだ。
罅割れた舷窓から射す日差しが修羅場を七色に染めている。遊星「無垢」の大地が平和を導いてくれる。
彼女が蘇生術を船長に施す。その間、僕は武官としてやるべき事をする。重火器の点検と装填だ。
無垢は縦横7km、高さ19.5kmの直方体で凹凸が殆どない。
この純白の天体が歳星軌道上に現れたせいで人類の知が乱れた。天文観測と巫言が一致しないのだ。
分光観測により主成分は水と確定した。この点は水の精霊も認めている。
だが、彼女は星の総重量を1ギガトンと答えた。科学者達は約955メガトンだという。
この差異を巡って諍いが生じた。魔導士は科学の不備を論い、科学者は陰謀論を唱えた。
決着をつけるべく学会は僕たちを送り込んだ。それが初日からこのざまだ。
「船内、1気圧を充足」
茜が告げる頃、船長が息を吹き返した。そして叫んだ。
「綾を撃て」
えっと誰もが振り向いた瞬間、バアンと気閘がはじけた。そして抜けるような青空、春一番、逆光と綾のシルエットが飛び込んできた。蒼穹に開く天使の翼。片手には銀色のケース。
「え? あの野郎」
僕は咄嗟にトリガーを引いた。だが蒲生が制止した。「撃つな」
悲しい事に僕の運動中枢は裏切者を確実に仕留めた。そして紅蓮が綾と僕たちを天国へ連れてった。
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