第三十三話 いちごキャンディー

やりすぎたかもしれん…。


出番が終わり、控え室になってる教室でお面を脱いで蒸れた顔をうちわで仰ぐ。


なぜ後悔をしているのか?それは、文化祭のテンションに引きずられたまま、気合い入れまくった演技をしてしまい、お化け屋敷に来たお客さんの間で最恐のお化けと言われることになったことが根本の原因である。


いや、後悔だけじゃなくて多少満足感もあるし、なんならやり切った感がヤバい。


後悔の本当の内容は八重桜さんが来たのを確認した時、テンションブチ上がりのまま脅かしをしてしまったことである。


お面の穴から僅かに見える視界から、無言で固まる八重桜さんが見えたかと思えば、「ッッッッッッ!」と声にならない悲鳴を上げて一緒に来ていた友達によじ登る勢いでしがみ付いていた。


こ、コアラかよ!と当時のテンションの俺はそう心の中で突っ込んでいたのだが、今思い返せば、流石に怖がらせすぎたな…と思う。あの反応を見る限り八重桜さんは確実にホラー苦手な人だわ。平気そうだなーと勝手に思ってしまっていた…。ただギャップって良いよね。


ってか俺はあの時何を考えていたんだ…、コアラ…?イベント事のテンションって怖いね…。


お面を被っていたので、あれが俺とは分かってないはずだけど、ちょっと罪悪感が強いので、タピオカは一番大きいサイズを頼もう…。たしかサイズ展開はしてたはずだ。


少し休んで一年生の階に向かおうとした時、


「気合い入ってたね〜!お疲れ様!」

「!?」


その声と同時、突然頬っぺたに冷たい感覚が来た。ちべてぇぇぇぇぇ!?


後ろを振り向くとポカリを右手に持った篠崎まお。篠崎まお!?


「お面暑かったでしょ?私からポカリの差し入れ〜!」

「あ、ありがとう」


篠崎まおは持っていたポカリを俺に手渡すと、さらに一歩近付いて来た。近付いてきた、と言っても俺と篠崎まおの間は人ひとり分くらいは空いてるけども。


「この後、みりあも一緒なんだけど文化祭回らない?」

「?」


突然のお声掛け。一瞬脳がフリーズする。


え、ここ学校だぞ?一緒に回ったりしたら皆んなから噂されちゃうぞ?一緒に回る篠崎さん達が悪く言われるかもしれないぞ?そして更に俺へのヘイトが高まるぞ?坊泣いちゃうぞ?


あの時の花火大会は学校外の行事だったし、そん時はスケジュール的に他人と合わなかったからヨシだし、買い出しの時は、ちょっと疑問に思われたかもしれないけど、まぁ単なる荷物持ちとして、参加"させられた"という体に一応はなっているはずだ。


でもさ?文化祭で一緒に回る?Oh…?学校内を歩き回るんじゃん。絶対同級生とかに絡まれる奴じゃん。篠崎まおいるからね?話しかけられるのは目に見えてんのよ!


「す、すまん。ちょっと疲れたからひとりでゆっくりしたいんよね」


ここは心苦しいが断る。ってか元々八重桜さんと回る約束してたからね。


上で言った同級生に絡まれるっていうのは、篠崎まおやら百谷さんをキッカケにこちらにも来る、というわけであって、俺単体もしくは、俺が知らない人と歩いていたら、声をかけるキッカケがなくなるからね。


そういうことも計算に入れて、八重桜さんと2人で心置きなく回れるように、と考えているのだよ。


なのでここは元々ボッチなので、怪しまれない断り方をチョイス。慣れないことして疲れたのですボカァ(僕は)。


「ふーん、そう言ってこの後あの一年生の子と合流するんでしょ?」

「!?」


と疲れた感を出していると、突然篠崎まおから埒外の攻撃が放たれ、もろに喰らってしまうワイ。


え?なんで?未来予知…?見聞色の覇気めちゃくちゃ鍛え上げてる??


「まぁ、しょうがないよね!もしすれ違ったらあの子にもなんか奢ってあげようかな。じゃ、私たちのこと見かけたら気軽に声かけてね!」


「ばいばーい」と去っていく篠崎まお。ちょっと待って、いや、ちょっと待ってと言われたって〜。


あの子にも何か奢ってあげようかな、とか言ってなかった?どういうこと?なんかよくわかんない。取り敢えず一年生の階に向かうか。


一年生の階に着いても篠崎まおの謎発言に納得のいく解答を導き出すことは出来なかった…。


━━━


ふぅ…!受付終わり!途中からめっっちゃ人来て大変だった!


中のお化けが怖すぎるとかなんとかで、噂が広まってたらしく、一般のお客さんも多く足を運んでくれて売上も材料費とかの元をとっくに越えて、クラスみんなにアイス買ってもお釣りくるくらい。


取り敢えず忙しかった…。みりあとお互いを労わって、取り敢えずは少し休憩してから文化祭を楽しもうと思う。


それはそうと、あの人と一年生ちゃんの関係を考えてみた。付き合ってはないだろうなーと漠然と思う。ってか冷静になって考えてみたら、そもそも男女の仲じゃなさそう。私の勘だけど。


みりあに「まおはにぶちんっていうかなんかズレてるっていうかー?」とか言われたけどそんなことないと思うので反論しておいた。


私の推理はこうだ。


夏休みの日に、親戚の子がどうこうって言ってたのはあの一年生ちゃんのことで、親族集まってご飯とか行ってたんじゃないのかなーと思う。


家族ぐるみの関係ってだけだから、あの子にも変な噂が立たないようにあんまり言いふらしたりとかしてないのかも。


んー、でもそうなると文化祭一緒に回るっていうのはなんか違うよね…。どうなんだろ。

まぁ、いっか!せっかくの文化祭だし、難しいことは考えずに楽しもう!


あの人と一年生ちゃんに会ったら、その時は何かジュースでも奢ってあげよ!


と、ぼーっとしてた私は、だいぶ遠くの方にみりあの姿を確認した。


「んー?まおー?早く来ないと置いてくぞー?」

「あ!ごめんごめん!」


みりあに呼ばれてそっちへ行こうとした時、急に角から現れたガタイの良い男子にぶつかってしまった。


「きゃっ」


あまり勢いはなかったはずなのに私だけ飛ばされて尻餅をついてしまう。デカいだけじゃない、壁にぶつかったかのような感覚…。


と、とりあえず謝らなきゃ!


「あ、ご、ごめんなさい!」

「あ゛ァ゛?」


その男子生徒は180cmは越えてるだろう背に、巌のような身体。鷹を思わせる鋭い目つき、耳にはピアスが何箇所も空いており、その首元と手首には金のネックレスがジャラジャラ掛かっている。


こ、怖い…!この人ほんとに同じ生徒なの…!?一応制服みたいなのは着てるけど…!!


「おォ、怪我はねェかよ?」

「は、はい…!」

「俺も悪かったわ、すまねェ。お互い怪我ァねェならここで終いにしよォや、俺も急いでるからよォ」


というとその男子生徒はこちらに手を差し伸べてくれた。


「飴ちゃんで手打ちにしてくれやァ」


その手を取って私が立ち上がると、空いた私の手にいちごキャンディーを握らせて、その男子生徒は軽く片手を上げて去っていった。


「ま、まお!大丈夫…!?」

「う、うん、なんとか!」

「取り敢えず用心しながら回ろっか」

「ん!了解」


みりあが「次来たらウチがぶっ倒してやるぜ」って言いながらシャドーを始めたので、それを見てたら少し落ち着いて来た。


見た目はヤバそうだったけど、なんか少し良い人のオーラを感じたのは私だけかな。

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