文化祭ですよ、ぱいせん。
第三十一話 水面下の企みと始まる文化祭
文化祭前夜の体育館裏。4人の男女が円を描くように座り込み、何かを話していた。1人の女子生徒は少し制服を着崩しているものの、他の3人に比べればまだマシな方だ。他の3人は着崩しのレベルが違う。
男子1人と女子2人だが、みんな18金のネックレスやら指輪やらをジャラジャラつけており、男子生徒に至っては、耳にはピアスが片耳でも7つ以上は開いている。
制服も煌びやかな刺繍が追加されており、派手になっていた。しかし、その刺繍は市販の型を切って貼ったしたようなお粗末なものではなく、職人が縫ったような逸品に見える。
「なぁ…本当にやんのかよ?」
「おう、折角の"文化祭"だからさ、やらねぇ理由がねェ」
4人の中で一番背が低く比較的まともな服装の女子が、一番背が高くガタイの良いピアスめちゃくちゃ開けてる男子に何かを確認している。その確認に大仰に頷く男子生徒。頷く時にネックレスがジャラジャラ音を立てる。
「それにチャカを俺たちに渡したってことは、お前さんも了承済みってことだよなァ?」
そして男子生徒は内側の胸ポケットから、銀光りしている拳銃を取り出して、女子生徒の前にチラつかせる。常識的に考えて、男子生徒が取り出した拳銃は、本物ではなくエアガンだろうが、造り込みは非常にリアルで、チラッと見ただけじゃ分からないだろう。
「それはそうだけどさ、ったく、終わったら奢れよ」
そして話の流れ的にそのエアガンは女子生徒が持って来たことになる。その女子生徒が奢れ、と言っているのは男子生徒にエアガンを渡した対価なのだろうか?なんらかの取引があったのは想像に容易い。
「勿論!盛り上げてやんよォ、だからお前さんも適度にやってくれや」
「しょーがねぇな」
パパパパパッ!
男子生徒の横にいた同じくガラの悪い女子生徒が突然ネズミ花火に火をつけ、閃光が4人の周りをぐるぐる回る。それを見てギャハハと笑う、ガラの悪い女子生徒2人。
「この学校で経験する初めての文化祭だろうから、しっかり楽しめやァ?」
「しっかし、なんでアタシなんだ?」
「ハッ、よく訊いてくれたなァ!そりゃァ、お前さんが一番似合うと思ったからだよォ!俺たちの勘がビビッと来やがってよォ」
疑問を呈する小柄な女子生徒。その疑問に対して、ニヤァ…と口角を上げる男子生徒。
「頼むぜ、我らがマイシスタァー!」
「アンタらの兄妹になった覚えはねぇんだけど、面白そうだしやってやんよ!」
そして迎えた文化祭当日。
俺は校門で待ち合わせしていた八重桜さんと合流して体育館まで歩く。開催にあたって、体育館で開会式があるのだ。一応金銭が動くこともあり、その辺の注意点とかも話したりするんだろう。
「12:00〜13:00でスペシャルステージがあるって話ですけど、何するんでしょうか?」
「先生同士で出し物とかするんじゃないかな」
そう、今回の文化祭は12:00〜13:00の間は生徒たちも休憩を兼ねてステージがあるみたいなのだ。詳細は校内放送があるらしいので、それまでは各自各々楽しんでねーってやつだ。気になるね。
内容は多分先生同士が漫才したりとか、校外から芸能人とかを呼んで出し物をしたりとかだろうけど。
「着きましたね」
「おん、並び順は…っと。学年クラス別っぽいね。ここで一旦お別れやね」
中に入るともう結構な数の生徒たちでワイワイガヤガヤ賑わっていた。見る感じ、俺のクラスメイト達が集まっているので、多分学年クラス別で間違いないと思う。
「はい!あ、えっと、ぱいせんは確か10:00から脅かし役でしたよね?」
「そそ、出し物が10:00からだから朝イチになる。もし良かったら遊びに来てね」
別れる前に確認のため、八重桜さんが俺の出番を聞いてきた。キチンとスケジュールを把握してる八重桜さん。真面目さんだよなぁ。
俺は自分の出番の後、と言う覚え方で八重桜さんの売り子の時間を覚えているので忘れることはない。もしかしたら八重桜さんも俺と同じ覚え方をしていてくれたのかもしれない。
「は、はい!頑張って行きます…!」
「おん、待ってるね」
さて一応の整列のため、八重桜さんとは一旦別れて学年の列に向かう。
開会式は緩いもので、点呼の関係上クラス毎に集まりはするものの、席順はバラバラで各々が仲のいい友人たちと座っている。
そして俺は両隣が空いているところをチョイス。やっぱり左右に人がいると気を使うじゃん?仲良いやつとかいないからさ。ここはね、俯いて寝てるような雰囲気を醸し出すのが一番なんだわさ。
とか思ってたら、隣の空いた2席に座る人影を横目で確認。なんで隣に座るんですかね?
まぁ…他の席が埋まって来てるから仕方なく座ったんだろう、そう思うようにする。
しかし、その2人組から何やらこちらを気にするような雰囲気を感じた。これ、何か話しかけて来そうだな…。学校行事の熱に浮かされて、普段仲良くない人間に話し掛けたりとかする人出てくるもんなぁ…、とか思っていると本当に話しかけて来た。
「ねぇ、いちお顔上げときなー?」
「う、うん、顔は上げといた方がいいと思う…よ?」
ん?この声ゎ…?
と思いチラッと横を見ると、篠崎まおさんと百谷みりあさんが座ってらっしゃいました。なんで?
普通に話し掛ける感じでいつも通りフランクな百谷さんと、なぜが目線がフワフワしている篠崎まお。
「ちょ、まお、しっかりしなってー」
「う、うん!」
なんか不自然な動作をしている篠崎まおはその隣の百谷さんに肩をえいえいっと突かれている。怒った?怒ってないよ。
ってかちょっと待って。俺の隣に篠崎まお座ってんですけどォ!?式用のパイプ椅子の距離は少し離れてるとはいえ!!Oh!No!
「私たち朝イチ出勤だから頑張ろうね」
篠崎まおはそう言うと、ガッツポーズをした。このクラス行事、ってか学校行事の当日の気合いの入りよう、流石陽キャって感じがする。
「お、おん」
「私とみりあも受付頑張って、お客さん沢山呼ぶから脅かし役、頑張ってね!」
ワイワイガヤガヤのまま開会式は終わり、生徒達の熱は高まった状態で文化祭が始まった。
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