第十七話 花火大会 当日
さて、ついにこの日がやって来ました。
昨日、篠崎まおにお誘いを受け、急拵えで準備して城まつり初日でございます。
「ひええ、やっぱり人多いな」
大花火大会というだけあって、全部で3,000発ほど打ち上がるまつり初日のイベントで、結構市外からも人が来る。まぁ、夏の風物詩みたいなもんだし、人は来るわなぁ。
城まつりは数日に渡ってあるまつりなので、何故か分からんけど、花火大会の日には出店の数が少なかったりする。
それにしても久しぶりにまつりの日にメインストリートを歩いてる気がする。ここ数年は家に篭ってダラダラしてるだけだったし、結構新鮮かもしれない。
このままダラダラした毎日を過ごし、誰の記憶にも残らないまま高校生活を終えるはずだった俺は、何故か女子に花火大会に誘われて今ここにいる。まったく、我ながら変な冗談かと思う。だって今日の相手はあの篠崎まおだしなぁ…。
なんかソワソワして30分くらい前に待ち合わせ場所近くに到着。
待ち合わせ場所に指定されたのは、地域の施設で、昔の古民家風の休憩所が隣接してる道の駅みたいな所で、名前を繋ぐステーションなんて言ったりする。人と人を繋ぐ場所、ってことなんだろうか。
あれ、そう考えるとこの場所を指定して来た篠崎まおは俺ともっと仲良くなりたい…?な、そんなバカな。ある訳無し無し、ナシゴレン。
そんな変なことを思いながら待っていると、まだ遠いけど駐車場入り口らへんに人が見えた。
白を基調に、咲き誇る向日葵を鮮やかに描いた柄、胸下には艶やかな紅色の帯。手には小さな、でも存在を主張するかのような漆黒のレース生地の巾着。足元はシンプルな下駄、と思わせて朱色の漆塗りの厚底で朱と白の鼻緒。
少し長めの髪ををゆるーくアップヘアにして、首筋が出るくらいの後頭部辺りで纏めてシンプルなピンでひとまとめ。
ぱっちり開いた目に、綺麗に伸びて視線を誘導する睫毛。スッと通った鼻筋、それでいて頬は少しふっくらしててハリがある。ほんのり赤いのはどこのチーク入れてんだろ。唇は、ぷっくりしててぷるるんとしてる。
やばい語彙がなくなってきた。
こういうときに語彙力くんがいれば良いのにな、と思う、マジで。
そう、それを着こなしてるのは篠崎まお。
やっべぇ…、今日少しとはいえこんな美少女と2人きり…?俺終わり…?これ緊張しすぎて、ここに辿り着く前に俺が終わってしまうかもしれない。
「あ、居た」
「…!?」
「お待たせ、んじゃ、少しだけだけど回ろっか?」
そんなこんなで放心してる俺に辿り着いた篠崎まおはニコッと笑顔を浮かべて、俺の少し先を歩き始めた。
なんだこれ、夢か?夢だよな?これ、現実だって思う奴いる?いねーよな!?
「早くいこーよ、ほら」
振り返って手招きをしてる篠崎まお。あぁ、なんだこれ、もう本当によく分からんくなってきた。
篠崎まおは行く先々で、見つけた出店に顔を出しながら花火が打ち上がるまで色々と遊んだり、色々と買ったりしてた。
何話せば良いのか分からなかったので俺は終始相槌を打つくらいしか出来なかったが、それでも篠崎まおは楽しそうだ。
まるで夏に人間界に遊びにきた妖精さんのように、はしゃいでいる。いや、ほんとは妖精さんなのかもしれない。あれ、俺何言ってんだろ、そろそろ思考が持たんぞ、こんなの。
なんか、夏の魔物に連れ去られてこのまま俺のとこにこねぇかな。
「まお楽しそうじゃん、よき」
なんかよく分からない頭になってた俺は、近くの茂みからこっちを見てる篠崎まおの友達に全く気付かなかった。ってかそんな場合じゃない。
「花火上がるよ」
「お、おん」
風を切る音がヒュルルと聞こえ、一拍置いて夏の夜空に咲く大きな一輪の花。大きな一輪を皮切りにどんどん咲き誇っていく。
家の中で見るのと外で、しかも好きな人の隣で見る花火なんて天の地の差ほど気分が違う。
チラッと横を見ると、花火を見上げる妖精さん。
この時間がずっと続けば良いのにな。
「あ、そろそろ合流する時間だし、私はここまで」
「お、おん」
「別に一緒に来てもいいよ?」
「い、いや、やめとくよ」
「了解、無理にとは言わないし。じゃあまたね?」
「お、おう、またな」
そんな時間は続きませんでした。残念。去り際にもこっちをみて手を振ってくれる篠崎まお。こっちもぎこちなく手を振りかえす。うまく振り返せてるんかな、なんか手が震えてる。
あの人、『またね』って言ったぞ。ということは"また"があるってことですよね?あるんかいな。
それより、少し心配点がひとつ。来てるんじゃないかなと思ってた八重桜こはるの姿がさっきから見えない。
篠崎まおにゾッコンの俺だが、一応八重桜こはるも探しながらここまで来たわけである。
連絡来なかったし、今日だって一応探してた訳だけど、居なくて少しホッとしてる自分がいる。
なんとなく、なんとなくだけど篠崎まおと2人でいる所を八重桜こはるにだけは見られたくない気がして。
だからいなくて少しホッとしてる。見つけられなかっただけかもしれないけれど、俺の勘的には会場にはいなかった。
「ふぅ…疲れた…」
取り敢えず帰って風呂入って寝よう。
そのまま瞳のファインダーに焼き付けた篠崎まおの浴衣姿を夢に映しながら寝よう、そうしよう。
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