第五話 紫だちたる

今日は雨が降っていた。あれから少し経ち梅雨が見え隠れし始めている。


外の部活は室内練習らしく、空き教室やら廊下やらで準備運動をしている。


実に雨の日は放課後散歩がしにくい。

何故ならその辺にクラスメートが散らばっているからだ。


普段は外の部活も雨の日は校舎に入ってくる。

勿論カースト上位のサッカー部や野球部も同様だ。まじでなんとも歩きづらい。


雨の日なら逆に早く帰った方がいいんじゃないか、という考えもあった。実際早く帰ろうと思ったんだけど、送り迎えとかを待つ奴等が下駄箱らへんで待機してたらするので、結局粗方片付くまで散歩するということにしたのである。


「ぱいせん」

「お」


なるべく人がいないところを抜けようと一階の渡り廊下を避け、校舎裏に続く廊下に進むと、あの一年生がいた。なんか久しぶりのような気がする一年生は少し表情を翳らせているように見える。


「この先の廊下少し濡れてるんで気を付けて歩いた方がいいですよ」

「お、おう」


それだけ言ってすれ違う一年生。俺はなにか表情が気になって呼び止めようとした。


「あっ、あの、その…」


が、案の定声が出らず、掠れた声は一人寂しい廊下に消えて行った。


我ながらなんか悲しい。人にかける言葉を考える間に言葉が詰まって会話にならないのはマジで悲しい。


まぁ呼び止めたところで俺なんかが出来ることなんてないのだろうが。そんなことを考えていると。


「えー、他空いてる場所ないの?」

「しゃーないじゃん、ここで一年教えよ」

「んじゃ一年ついてきてー」


なんか階段を降りてくる音と声が聞こえてきた。ここの廊下に来るには一階の教室側からと廊下横にある階段からの二種類があるのだが。


ってかそんなこと言ってる場合じゃない。

これ女バレやんけ、篠崎まおの声聞こえてくるやんけ。


咄嗟に見つかったらやっべぇ、という考えしか頭に出てこなくなって軽いパニック。イレギュラーが起こるとすぐ対応出来ない俺氏…。


といっても隠れる場所って階段下に置いてあるこの掃除箱しか…!あーもうしゃーない!!!はよ!!!


なんとかバケツとマップを横にずらしてそこに飛び込む!!


「篠崎センパイ、今日は何するんですか?」

「今日は腹筋に腕立て!オーソドックスだけど最初のうちは筋力作りから!」

「ハイ!」


ギリで掃除箱に隠れれたのはいいが、まさかこの掃除箱の前で筋トレするなんて誰が思うのだろうか。


なんていうことでしょう。


暫く退きそうにない女バレ諸君。

これ、練習終わるまでずっとここにいるなら暫く帰れんぞ…。ってかなんかトイレ行きたくなってきたかも…。気のせいか…?


「すみません、ちょっといいですか?」

「生徒会の子?どうしたの?」

「ちょっとこの先濡れてて危ないので少しの間生徒会が掃除しますので、少しだけ違うところで待っててもらっても良いですか?」


そんな感じで少しグロッキーになってきた俺の耳に救いの声が聞こえてきた。


生徒会の子…?そしてこの声聞いたことある。

ってかさっきも聞いたような…。


「それなら仕方ないね、どのくらいかかる?」

「4、5分ですぐモップかけしますので」

「りょーかい!んな一年、トイレ休憩いいよー」

「はい!」


鶴の一声により去っていく女バレ部員たち。

篠崎まおも離れて誰もいなくなった時。


「ぱいせん、いるんですよね?」

「う、うむ」


掃除箱の扉を開けると、目の前にはあの一年生の子がモップを二つ持って立っていた。


「はい、助けてあげたんで掃除手伝ってください」

「あ、ありがと」


なんだこいつ、助けてくれたのか。

凄い感謝の念はあるのだが、いかんせんなんて伝えたら良いのか分からないので結果ダンマリしてしまう。


水をある程度はわきおわる少し前に、「先に帰っててください、女バレの方々が戻って来ちゃいますので」と言われたので俺は大人しく後を一年生に任せて退散することとする。


迷惑かけて申し訳ないな…。明日なんかお菓子でもお礼に持ってくるかな。


「ありがとう」

「どういたしまして、それとお気をつけて」


いつもと変わらないテンションに戻った一年生を背に俺は駐輪場へと歩を進めた。


その時誰かとすれ違ったのだが、あまり気にして無かったし、その人も外の方を向いてたので分からなかった。


あれ、誰だったんだろう。ま、いっか。


さて雨も少し小ぶりになってなってきたし、今のうちに帰るかな。

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