最強戦姫と魔女のイロウプ
水原麻以
死闘!ギヌンガガップ!!
「打ち砕いてやるぜ! 一縷の望みって奴をよ!!」
余裕しゃくしゃくの仮面が豹変し敵意がむき出しになった時、稀代の戦姫は千載一遇の機会だと確信した。どんなに賢くてどれほど経験を積んだ者でも滅ぶ運命に抗う能力はない。戦闘哲学は敵愾心の数だけあるのだろうが、どれも真実だ。それすらも唯一の黄金律に屈服する。
死だ。
強者にも弱者にも死は平等に与えられる。だが苦杯を嘗める段階から血で血を洗う戦いを切り抜け、築かれた屍の頂点に立つ人は、悲しいことにそこがオリンポス山だと錯覚してしまう。だから、最強を追い求める戦姫と魔女は魔王が墓穴を掘る瞬間を何年も待っていた。
ベルゼビュートが長広舌の間に稼いだ魔力を一気に開放するやいなや、戦姫は渾身の力を振り絞った。
弓がしなり、弦が鏑矢をはじく。そして、鋭く尖った先端部が悪魔の眉間に突き刺さった。
その直前まで思い上がった彼は自身の圧勝を微塵にも疑うことはなかった。もちろん、自分を褒め称える弁舌は絶好調だった。
「背伸びすれば崇高なる存在と並び立つことができる? 愚かな下等動物め」
それが彼にとって最後の自己紹介となるように魔女はありったけのパワーを注いだ。
「ぐはっ?!」
魔王はカッと目を見開く。血走った眼球が激しく回転して受け入れがたい事実に焦点を合わせた。ねっとりした血が鼻の両脇を流れ落ちる。
「ばっ、馬鹿な? ベルゼビュートが、たかが幼齢のッ!」
そこで言葉を区切る。深々と食いこんだ矢は悪知恵の詰まった脳幹を貫き、中枢神経を根こそぎ破壊していた。荒い呼吸で息も絶え絶えに続ける。
「たかが……ゴフッ……ね、幼齢の……雌……ごと…きに……」
先ほどまでの強弁とは打って変わった弱音を吐く、魔王。原始的な下等動物のメス、億万年を生きる魔界の覇者に比べて塵ほどの経験もないケダモノ。殺す価値もない。だが彼の見識はことごとく間違っていた。
自信に溺れ彼は攻撃に集中するあまり防御を怠っていた。必要性すら感じていない。その慢心を突かれた。
強さを誇る以上は全方向に最強であらねばならない。
「敗れると……は……?」
誇り高き魔王の巨躯と背負った疑問符が地下迷宮の奥にたたきつけられた。
「脱出するわよ!」
戦姫はスカートの中が丸見えになるのも気にせず、階段を駆け上がった。お供の魔女も可愛らしい肌着をちらつかせながら昇っていく。
崩れ落ちる洞窟。歴代の勇者を屠った魔王の治世はこうしてあっさりと幕を閉じた。
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