おばさん構文進化形態大全

ユダカソ

おばさん構文進化形態大全

「はあ……。なんだかあなたとやり取りしていると疲れてきました。私の周りが如何に親切な方々かを痛感させられます。お若い方なのでしょうが、人の話は聞くことが大切ですよ。例えば……」

見ていてうんざりするような、それでいて向かっ腹が立つような文章が並ぶ。

この時友花は知らなかったが、これは世に聞くおばさん構文であった。

「長々と失礼いたしました。ご活躍を応援しております。返信は不要です。」

文末は一見丁寧で人の良さそうなファンレターじみた締めくくりだが、文の内容はまるで応援していない。

意地の悪い京都弁にも似た逆説的な言葉の使い方、「この人は何が言いたいのだろう?」と気持ちにさせられるのがこの構文の特徴だ。


なぜ私がこんな文章を送られなければならないのか……。


それは数週間前に遡る。

友花……治垣友花(じかきともか)は今年高校を卒業し、晴れて大学に入学した大学生だ。

もっともオリエンテーションは大学の公式ホームページのお知らせから、授業はオンラインなどでほとんど済まされ、憧れのキャンパスライフとは程遠い大学生活を送っているのだが………。

だが、普段から出かけるのも着替えるのも億劫な友花にはむしろ好都合であった。

友達が出来にくいのは難点だが、新しく出会った人とやり取りするのは緊張するし、何より高校の友達で十分満足した人間関係を築けていると感じていた。

家から一歩も動かずに授業も受けられて、リラックスも出来て、しかも……授業中に漫画を読んでいても誰にもバレないのだ。

世間的な理想とはかけ離れてこそいたが、友花にとってはこれぞ理想の大学生活であった。


「はあ……このコマ、何度見ても推しの顔が美少女過ぎるんだよな………」

美少女と形容されたキャラクターはいかついマッチョで髭の生えた太眉の男性キャラクターであった。

友花は好みのキャラクターが何でも美少女に見える感性の持ち主なのだ。

つまらない授業はこうして漫画を読みながら、時々、二次創作のネタが思いつけばメモをしながら時間を潰すようにしてやり過ごす。

そう、友花はオタクであった。二次創作もするタイプの。

最近ハマったジャンルは今大人気の刀の漫画……ではなく、だいぶマイナーで古い漫画であった。

主人公は寿司職人を目指しており、たびたび悪の寿司職人が主人公の寿司屋を襲い、寿司バトルで悪の寿司職人をうちのめす……。そんな寿司バトル漫画が友花の心のオアシスであった。

特に友花の好きな美少女……ではなくマッチョと、そのライバルの友達の大人しい女性キャラクターが同じコマにいると友花の心はときめくのだった。

二人の接点はほとんど無いが、こういうマッチョと大人しい女性の組み合わせは友花の好みだった。公式が何と言おうと私は二人を推す………友花はそう魂に誓っていた。

ちなみにマッチョは、病弱な寿司職人ならぬ寿司見習いの美麗な少年との組み合わせの方が全盛期のファン的には盛り上がっていたようで、今でもイラストや小説投稿サイトにはその名残りを見ることができる。

だが、友花の好みの組み合わせはほぼ無いに等しい。

「これは……私が伝説を作らねばならん!」

友花は闘争心に燃えた。

メジャーカプよりマイナーカプほど創作意欲が増すもの。

友花は意気揚々と二次創作を始めた。友花以外の二次創作は(特にマッチョと美麗な少年のものは)お耽美な内容の二次創作が多かったのだが、友花はそんなこと一切気にせず少し下品で尖ったような内容の二次創作を目指した。

というのも友花の憧れの創作者ーー今は別のジャンルにいるのだがーーは下品で公式を無視したものが少なくなかったので、友花もそのような二次創作を目指していたのだ。

「これはちょっとやり過ぎたかな……」

あまりにも好き勝手にキャラクターを動かし過ぎてしまった気はするが、二次創作の小説を書き切ったことに満足した友花はキャプションに申し訳程度に「なんでも許せる人向け」と書いて投稿した。ついでに「この二人は永遠に公式です!」と付け足した。

もっとも公式ではないし、そんなことは本編を読めばすぐにわかるのだが、友花は公式、いやそれよりも熱い繋がりを二人の中に感じるという信念を込めて書き入れたのだ。

それがどんな事態を招くかということも知らずに………。


変化が起きたのは「小説を投稿しました」とsnsで二次創作の宣伝した次の日であった。

匿名アカウントから通知が来ている。感想かな?嬉しい!と期待して読んだのがいけなかった。

「これ、公式じゃないですよね?嘘をつくなんて許せません。今すぐ削除して下さい。」

なんと、友花の信念の叫びがあだとなってしまった……。

友花の叫びは悲しいことにソウルフレンドにではなく、見事にアンチ・友花ソウルの元に響いてしまっていたのだ。

アンチ・友花ソウルは仲間を呼び集め、沢山の匿名アカウントからの苦情を呼び寄せてしまっていた。

だが、こんなことでは友花はへこたれない。

「捨てアカは即ブロックって進研ゼミで見た!」

友花はすぐに匿名アカウントをブロックして済ませた。

すぐに「ブロックされました!」とブロック自慢していた、と友花のフォロワーから又聞きしたが、直接的な攻撃でないので無視無視、と友花は割り切っていた。


だがそんな友花も流石に「ちょっとやっちまったかな……」と不安になり、友花の好きな漫画……寿司バトル漫画についてsns内検索してみると、友花の小説のことで界隈が見事に荒れている。

数々の匿名アカウントや匿名じゃないアカウントが阿鼻叫喚の嵐に包まれていた。

「いやあああああんマッチョは美麗な少年と結ばれる運命なのおおおおおモブ同然の女に近づかないでよおおおおお」「こんなの新規さんが見たら公式って思われちゃうううううう許せないイイイイイイイイン」

「やああああだああああああやあああだああああああこんな汚いモブ女との妄想が公式になるなんてやだああああああ」

前述した通り、寿司バトル漫画は少し古い漫画だ。友花など新しくハマった人を除き、ファンのほとんどは友花より年上……ひょっとすると10年も20年も歳が離れている。

そんな人々がこんな醜態を晒している。おぞましい。

友花は余計な文を書き入れたことへの反省より恐怖の方が勝った。自分が非難されることへの、ではない。いい歳した大人が一人の……それも20歳前後の若者の二次創作なぞに感情を振り回され、snsで鍵もつけずに荒れていることに。

先にも述べたが、友花は調子に乗ってキャプションに「公式」とは入れたものの公式でないことは原作を読めばすぐにわかるのだ。古参・中堅ファンなら尚更一目瞭然だ。それを「公式になる」と騒いでいるのも頭が悪すぎて余計気味が悪かった。

「見てはいけないものを見てしまった……。」

友花はこれ以上見ないようにした……かったが、怖いもの見たさで検索を続けてしまう。中には「こんなの常識知らず、本当にありえない。死んで。」とまで散々にけなしている者までいる。

確かに公式というのは言い過ぎた気もするが、「そこまで言うか?」という気持ちが無いでもない。

友花は比較的冷静ではあったが、流石にここまで自分が原因で知らない人達が荒れている状況を見るのは初めてなので、若干ビクビクしながらもキャプションから「公式」の文字を消し、「なんかお騒がせしちゃったみたいですみません!」と謝罪した。

速やかな対処に我ながらなんと模範的な行動、と友花は自分を褒め称えた。

これでひとまず一件落着、と思い、嫌なことは考えないようにいつも通りオンライン授業を受けながら友花は1日を終えた。


しかし事はすぐには収まらない。

「あの創作者、白々と自分の罪を無かったことにしてる。ますます許せない。」

「公式」の文字を消したのに、消したが故に逆に火をつけてしまったらしい。

昨日阿鼻叫喚の嵐の中にいた人たちが懲りもせず友花の二次創作について悪く言っている。

「いや、そう受け取るのは流石にお前らの感覚が歪み過ぎてるだけだろ……いい加減にしろ!」

sns上でではなく空中に、誰に言うでもなく悪態をつく友花も友花で、見なければいいのに気になって自分の二次創作の影響について引き続き検索してしまう。

だが、延々と自分の悪口が続くだけ……何も面白くない。気づかれないように何個かのアカウントをブロックしたりミュートしたりしながら、もうこの件について考えるのはやめよう、と友花は考えた。

考えたついでに、自分のアカウントで「知らん人の一人の二次創作に対して荒れてる奴ら全員キモいな」と煽っておいた。

次の日また匿名アカウントやらが想定通り阿鼻叫喚の地獄と化していたが、別に面白くないので友花はすぐミュートした。


そんな日々のある日である。小説投稿サイトに、どう見ても捨てアカ……捨て駒感覚で作られたアカウントからコメントが寄せられていた。

「はじめまして、あなたの小説を読ませていただきました。」

一見普通の書き出しに見える文章。

いや、書き出しはその通り普通なのだ。普通に装られた文章であることが、読んだ当時はわかっていなかったのが悔やまれる。

「件の小説について、ふれふら(これは友花のペンネームだ)さん自身、何が問題かわかっていらっしゃらなかったようなので、ご説明させていただきますね。」

二次創作で荒れた件についてだ…。わざわざいいのに、と思いながら読むと………内容は若干歪んでいる。

友花の視点が欠けているというか、友花の二次創作に不満があった連中の都合の良いようなものに変えられているのだ。

「公式じゃないものを公式って言っちゃうのは流石にどうかなって思います。今後は気をつけたらいいんじゃないかな?って思いました。ふれふらさんのご活躍を今後とも応援しています。失礼しました。返信不要です。」

ラフなのか丁寧なのかも微妙な文体。

冷静に判断したように見せかけて、表面的な情報だけ拾っている。こんな文章を書くのは年下の……二次創作に触れたばかりで自分の感覚が公式と信じて止まないような……中高生に違いない。

友花はそう思い、「中高生なら仕方ないかな……」と、自身を納得させた。そして返信不要とはあったがちゃんと説明したい、と思い、自分の考えや反省点、そしてしっかりと速やかな対応もしたので大丈夫であることを伝えた。

「確かに余計な部分があったかもしれませんが、こちらは速やかに訂正し、対処したことも事実です。そこを無視して大騒ぎされる方が問題があると思います。こちらだけの不手際ではないことをご理解いただけるとこちらとしても助かります!」

友花なりの誠実さの表明であった。

だが、全てが終わってから考えるとこんなことする必要は無かった、いやしなければよかった。

何故、この漫画のファンの年齢層の高さを忘れていたのだろう。相手が中高生なんて証拠はどこにも無かったのに……。

友花はまだ気づいていなかった。

これがおばさん構文の第一形態、成虫になる前の蛹、いや幼虫の姿であったことに…………。


次の日、返信が来ていた。

返事不要とあったから読んでくれないかも、と思っていたが、ちゃんと読んでくれたんだ。

中高生相手と思い込んで甘くなっていた友花は、返信もちゃんと読むことにした。

だがこれはおばさん構文第二形態だったのだ。無視するべきだった。もっとも友花は気づいていないせいで読んでしまうのだが……。

「ふれふらさん、返信ありがとうございます。」

やはり書き出しは普通、に装われている。

「ふれふらさんのご意見はよくわかりました。『お騒がせしちゃってすみません』よりも『訂正しました。ごめんなさい。』とした方が、もっとわかってもらえたかもしれませんね。」

どうでもいい。

どうでもいいような指摘、これこそがおばさん構文の第二形態なのだ。

その後も影響力がどうとか、「それ話してどうすんの?」みたいな話が続く。

「ふれふらさんの小説が悪いと言いたいわけではないのですが、もっといい小説は沢山あるのに、中々読んでもらえないんです。」

「そんなことを私に言われても」友花は唸ることしかできない。私に構わず、そういう小説を宣伝したり話題にしてあげればいいのに。

最後はまた「失礼しました。応援しています。返信不要です。」で締め括られている。

この時点で無視をしておくべきだった。

だが友花は「面倒な中高生だな」と思いながら返信してしまった。自分の意見をきちんと伝えるべきだと思ったのだ。

友花はこれが誠実な対応だと思っていた。それは誠実でもなんでもなく、無駄でしかないと気づいたのは最終形態おばさん構文を見届けてからである。


次の日、また返信が届いている。

返信不要に返信した友花も友花だが(自分の意見に納得して貰えてないようなのが気に食わず、友花も半分意地になっていた)それに返信する向こうも向こうである。

書き出しはまたしても普通な文章に擬態している。そして

「ええと、好きな小説の宣伝の話はしてないように思うのですが。それに、ふれふらさんは公式をちゃんとお読みになられてないようですが、普通、創作するときは原作をお読みになられますよね?例えば、英語を勉強する時、教科書なしでは書けないでしょう?」

と例えを交えた説教が続いた。

文頭は友花の「私の小説に構わず、お好きな小説を話題に出したり、宣伝してあげてください!」という意見に対してのアンサーだ。

しかも公式をちゃんと読んでないことにされている。

友花の調子に乗ったキャプションと二次創作がちゃんと読んでない認定されてしまったのだ。

「いや、読んだ上で思いっきりふざけたんだよ。」こういう二次創作読んだこと無いのかな。まあ、中高生なら読んだこと無くても不思議ではないかも。

未だ相手を中高生と信じている哀れな友花はこのおばさん構文第二形態とやり取りを続けてしまった。

もちろん向こうの文末は「失礼しました。応援しています。返信不要です。」で終わっているのにも関わらず。


それ以降のやり取りは実に不毛なものだった。

先ほど相手が創作をする時についての話題を振ったので、質より量派の友花が下手でも恐れず創作をするべきだ、と自分の意見を伝えれば「でも、英語で言うと、教科書を何冊か参考にしてからじゃないと」と言うので、これはもしかして創作したこと無いからこういう意見になるのだろう、と思い「一度ご自分で創作をなさってみては?英語だって書いてみなければ上達しないのと一緒で」と返せば「私、創作したことあります!」と明らかに憤り、最終的に「今、創作の話関係ないじゃないですか!」と強制終了させられてしまったのだ。

お前の方が創作の話はじめたのに!?!?

思わず友花は叫んだ。画面に向かって。

聞いてもらえないのが残念だ。別に残念ではないが、「やる瀬無い」とはこのことだ、と友花は感慨に耽った。いや、こんなことで耽りたくない。


創作論について触れられたのを皮切りに、相手は確実にヒートアップしていったのを友花は画面越しに感じていた。

そして、創作論強制終了と共に満を辞しておばさん構文第二形態は第三形態へと進化を始めた。

ここからはもう幼虫ではない。成虫に近い蛹だ。おばさん構文の羽化の日は着々と近づいていた。


「元の話に戻りますと」

元がもうどこかわからなくなっていた頃、元の話に戻った。

(しかし依然相手が何を言いたいのかはわからず、文末はいつも「失礼しました。応援しています。返信不要です。」だった。)

「ふれふらさんはどうしてもこちらの意見を聞いてくれないようですね。」

むしろお前の意見って何?

友花がそう思った矢先だ。決定的な言葉が飛び出した。


「お若い方のようですが」


えっ?


お若い?


………説明は不要かもしれないが、敢えて説明しておくと、友花はそれまで相手を「中高生」だと思っていたのだ。

「中高生だからこんな考え方もまだわかる」「中高生だからめちゃくちゃな文でも仕方ない」

そう思ってやり取りしていたのだ。


そんな相手からの「お若い方のようですが」


えっ……………?


中高生から「お若い」なんて言葉出るかな?

だって中高生の方がお若いのに

中高生はお若いなんて言わないよね?


えっ……………………


………………てことは………………………………


こいつ…………………………………


もしかして……………………………………………………………………………………………………










バ バ ア??????????











そう直感した瞬間、


友花はまともに文章を読むことをやめた。


例の言葉より下には説教と見下しの混じった文章が並んでいる、

気がするが、もう相手が年上……おばさんと分かった以上、読む価値を無くしたので友花は目を滑らせただけでほぼ読んでいなかった。


ちなみに、何故おじさんではなくおばさんなのかと言うと、友花の好きな寿司バトル漫画の二次創作界隈はマッチョと美麗な少年がメジャーな人気となっていることから女性ファンが多く、古い漫画であることからファンの年齢層も高いこと、文体、などなど様々な要因からおばさんという結論に至った。

少なくともかなり年上であることは確実だ。

「お若い方のようですが」と相手を年下と決めつけることにまざまざと古い価値観を感じられる。

きっと年功序列の風潮の中に揉まれ、若い方は格下、若くなくとも若いと決めつけることが相手へのダメージになると考えて出た言葉なのだろうというのが推測された。

もしかするとおばさんではないかもしれないが、おばさんでなくともこんな文章を見知らぬ人に送る時点でヤバイ人に違いはない……。

どちらにせよ読む価値の無い文だった。


「申し訳ありません。これ以上あなたの要望に応えられる気がいたしません。失礼いたしました。」

友花はそう返信してやり取りを終えることに決めた。


直ぐに返信が返ってきた。

「勝手に終わらせてたまるか」そんな意気込みさえ感じられる。

「なんど言ってもわからない方ですね。はあ……。なんだかあなたとやり取りしていると疲れてきました。私の周りが如何に親切な方々かを痛感させられます。お若い方なのでしょうが、人の話は聞くことが大切ですよ。例えば……」

謎に自分の周りを自慢しはじめ、こちらを完全に見下した態度を、もはや隠そうとともしなくなった。

この諦めの境地に至ったおばさんこそ、第四形態のおばさん構文だ。羽化の日も近い。


だが友花はやり取りしないと決めたら決定的にしない。

進化を続けるおばさんは長々と説教を続けているが、羽化する前におばさんとの関係を断つことにした友花にはもう届かない。

文末はやはり「失礼しました。応援してます。返信不要です。」なのだろうか。

確認する気も起きないのでわからないが………。


こうしておばさんとの蜜月は終わった……と思い、なんとつまらないことで時間を費やしていたことか、と友花は笑えそうで笑えない気持ちになっていた。

中高生と思っていた相手がおばさんなんて、こんなことある?

というかおばさんが中高生同然の精神的未熟さを感じさせる文章を書くことがあるなんて…………。

「インターネットはやっぱり怖いのう。」

そう思ってsnsの自分のアカウントを確認する。

最新のツイートには鍵のついたアカウントから無数のリプライがついていたが、鍵アカウントからのリプライは公開アカウントからは原則見ることが出来ないようになっている。

新しい形の嫌がらせか、本当に見えないことがわからないまま返事をしろ、とドアを叩いているのか、いずれにせよおばさんとの戦いに疲れていた友花には、もはやどうでもいいことだった。

どうでもいいことだったが、自身のフォロワーに向けて何か一言伝えたいな、という気持ちになっていた。

友花のフォロワーは1000人を超えている。数万越えのフォロワーがいるアカウントに比べれば断然多くはないが、少ないとも言い切れない。

友花の小説を巡った騒動について、心配している親切なフォロワーもいるかもしれない。その人達には色々あったけど大丈夫だよ、という気持ちを少し伝えたいなという思いが湧いたのだった。

「私の不手際によりバタバタしちゃって申し訳ありません!こちらは大丈夫ですので、また何か思いついたらどんどん小説書きたいと思いま〜す!」

これでもう大丈夫。全てが終わったんだ。

フォロワーからの温かい応援コメントや何気ない挨拶コメントに囲まれて、ようやく元の日常に戻るのだと友花は安堵に包まれていた。


だが、おばさんの進化は止まらなかった。


次の日、小説の投稿サイトのコメント欄を確認すると、新しくコメントが来ていた。

今までやり取りしていたコメント欄とは別の、新しいスレッドから来ていた。


だから気づくことが出来なかった。

油断していたのだ。


それは例のおばさん…………第四形態おばさん構文の

最終進化形態からのコメントだったのだ。


そこに待ち受けていたのは、世にもおぞましい、おばさんの醜い部分を凝縮したただ醜いだけの怪物が生んだ、嫌味と開き直りと見下しとお気持ちが煮詰まった…………………






醜いババア構文だったのだ。 










「ふれふらさん、お久しぶりです。












あっれえ〜〜〜〜〜〜?????



どうしたんですか〜〜〜〜〜〜?????



『私の不手際により』って自分で自分の非を認めちゃってるじゃないですか〜〜〜〜〜〜!!!!!!!



ええっっ〜〜〜〜〜〜〜???????



すっご〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!



『こちらだけの不手際じゃない』って言ってたのに 〜〜〜〜〜〜

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



さっすがふれふらさんですね〜〜〜〜〜〜〜wwwww



かないませんわあwwwwwwwwww



失礼しましたwwwwwwww



これからもず〜〜〜〜っと応援してま〜〜〜〜〜

す!!!!!



返信不要です!!!!!!」






















「バ バ ア !!!!!!!!!



て め え !!!!!!!!!!



ぶ ち 殺 す ぞ !!!!!!!!!!!!!」





















友花は叫んでいた。



もはや叫ぶしか無かった。





これがおばさん構文最終進化形態………


『醜いババア』の力により生み出された叫びであった。















ーーーー数年後。




友花はあの後どうなったのだろうか?

最終形態おばさん構文の魔の力により心を病んで自殺をしてしまったのだろうか?

それとももうこんな思いはこりごり、と筆を折ってしまったのだろうか?




否、ーーーー友花はハリウッドにいた。




友花は最終形態おばさん構文の攻撃を受けても筆を折ることは無かった。


むしろおばさん構文との出会い、別れ、争いと戦いの日々を事細かに綴り、小説サイトに投稿、瞬く間に話題となり書籍化、そしてアニメ化、実写化を経て………ついにハリウッドにまで進出していったのだ。


友花はイケメン俳優やマッチョ俳優、美女や美少女、さまざまな強者に囲まれて笑っていた。

おばさん構文のような嫌みたらしい言葉を彼女に向ける者はもういなかった。


友花はおばさん構文により世界進出したが、おばさん構文に攻撃を受けたのも事実。

おばさん構文を恨みこそすれ、感謝は毛頭できない。

彼女のキャリアにおばさんが力を与えたのではなく、おばさんの力を我が物に彼女自身がのしあがったのだ。


そこを踏まえて、友花の代表作ーー『おばさん構文進化形態大全〜醜いババアの武闘(ロンド)〜』についてインタビュアーは尋ねた。

「おばさん構文はあなた自身に送られた嫌がらせのコメントをモデルに書かれたそうですが、そのコメントを送った者に対して、何か伝えたいことはありますか?」


友花はインタビュアーに正面を向けて、魂を込めて腹から声を出してこう答えた。









「バ バ ア !!!!!!!!



ぜ っ て え 許 さ ね え か ら な 

!!!!!!!!!



バ バ ア !!!!!!!!!



ぜ っ て え ぶ ち 殺 す !!!!!!!!!!!!!」

















おわり

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