ステイ・ホームカミング

水原麻以

第1話

世界について学びなおせばいい。ついでに金の事も。そう言い残して富豪は頭を撃ちぬいた。

暮らしの全てを支配する南印度会社の中枢が麻痺するまであと22時間。真相究明せねば百億が死ぬ。

「もっと要件を絞って。あたしは神様じゃない」

「娘を探し出してほしい。必ず生きている。連れ戻せ。手段と費用は厭わん」

「了解」

珠緒は濡れた裸体にバスローブでなく装具を纏った。


「未曽有の感染症が地球全体を恐慌させて半世紀が過ぎた。人類の9割が余剰の貧民として宇宙へ放逐された。量子転送航法の発明により光年単位の距離を日帰りする需要が生まれた。ていのいい炭鉱夫である。人々は最果ての修羅場へ通勤し、危険手当を稼ぐ。額は悪くない。ただし生きて帰ればの話だが」

明彦は惨めな境遇を述懐した。

「泣き言はいいから。お金が必要なの」

身重の妻は腹をこれ見よがしにさすった。

「わかってる。堕ろすと苦労が台無しだ」

男は口を真一文字に結んで、夜風に散った。

銀河極北の採掘船に異変が生じた。南印度会社は疫病後の東亜大戦で圧勝して以来、軍事から経済まで牛耳っている。特に燃料資源は最重要品目だ。極北のシヴァ座αにガス惑星が見つかり、高濃度のヘリウム3が得られた。採掘船ガルダは最初の商業化成功例となる筈だった。

明彦は先の従軍経験を買われ、突入部隊に選抜された。買い手市場が打線を自由に編成できる時代。嫌々働く人材は要らない。

隊長は半黒人で質実剛健な矢作。女医に早乙女。電子技師の真鍋、戯画的なオタクだ。これに明彦が加わった。

四人はガルダの気閘前に転送された。内部は強固に遮蔽されている。

「ロックが掛かってますね」

真鍋が造作なく解除した。途端に弾幕が吹き荒れた。

「野郎!」

矢作が粒子砲を召喚して扉ごと吹き飛ばした。

「序盤から無茶全開ですか」

早乙女が肝を冷やしている間に明彦が遺骸を調べた。金属質だ。

「ガルダは無人でしたよね?」

間一髪、ながらえた真鍋が眼鏡に構造図を映す。

「全自動の船に人を遣すもんか。乗員がいる」

隊長が言い捨てた。南印度会社は最新鋭を信用していなかった。

「しかし、深淵は錯乱を招きます。却って混乱するのでは?」

女医らしい意見だ。誰もみな寂しがる。

「これを見てみろ」

破壊し尽くされた船内に明彦が凍り付いた。カチコチの臓器が散乱している。

「みんな、防疫機能を起動して」

早乙女が感染症を懸念する。なるほど、銃を構えたまま数名が斃れている。

「どうして病気だとわかる?集団狂気かも知れな…」

ドカン、と射線が明彦の肩を掠めた。首の長い女がボロボロに崩れる。

「ケッ!倒れてきただけかよ」

銃口をさげる矢作。

それにしても様子が変だ。ガルダは自律歩行する工作機械を満載していて人間を載せる必要がない。

真鍋の指摘に四人が頷いた。

「機械らしい視点だな」

矢作が皮肉った。しかし真鍋は気にせず続けた。『彼』は散乱した遺骸の身元した。

機関部と貨物室のクルー男女十名。和を乱す症状が亢進したらしく銃撃戦になった。

「採掘船にこんな重武装が必要か?」

明彦が首を傾げた。どう見ても海賊の襲撃を想定している。

「ああ、良からぬ輩が量子転送されてくるからな」、と矢作。

しかし、武器あらば叛乱も予想できよう。余りに杜撰だ。

「社運を賭けた事業がそうそう簡単に躓くか? 二重三重の保険が掛けてあるだろ」

矢作隊長は疑念を深めた。シヴァ座αのヘリウムは電力逼迫に喘ぐ量子転送業界の切り札だ。安価でクリーンな核融合が貧困を救ってくれる。正直言って、地球の定員は大幅に減った。食糧、資源、医療厚生あらゆる面で百億を養えない。輪番制で滞在させる事で常時十億人が必要最低限の文化的生活を営める。残りは地球外で急場を凌いで貰うしかない。明彦もその一人だった。

ところが化石燃料の枯渇と太陽活動の衰えでそうもいかなくなった。南印度会社は傘下の各国自治府から要望され、銀河極北に活路を求めた。

「その万策が尽きたから修繕する。そういう命令でした」

真鍋が命令書を虚空に投影した。文言に瑕疵はない。

「それで私が呼ばれたのね。感染症対策は趣味程度に学んだけど」

「趣味?」

明彦が眉をひそめた。

「嵌った没入遊戯があったの。好奇心の延長」

「早乙女さんもそうとうヤバい。ヒェッ」

軽口を叩いた瞬間、真鍋は廊下に吹っ飛んだ。明彦が激高している。「機械の分際で!」

即座に「彼」は立ち上がり、言い返した。「人間よりも弁えてます。僕らは困難と闘うために来た」

「二人ともやめなさい」早乙女が割って入る。

「こんな風に始まったのかな」

矢作は真鍋と遺骸と金属片を順に見やった。

「ガルダに生存者がいた模様」

姿勢制御翼に実体化した珠緒は近況を依頼主に報告した。

「それは沙織ではない。介護士の津村ではないかね。彼は感染症対策に長けている。娘も無事だろう」

「そこまでご存じならご自分で赴いては?」

「悟られぬよう、沙織を転送してくれ」

父親は理由も告げぬまま回線を切った。珠緒は肩をすくめ、翼の陰から様子を伺った。

チームは臆面もなく派手に電波をまき散らしている。傍受内容から内部がまるわかりだ。

津村は錯乱状態で意思疎通できない。核の直撃にも耐える無菌室に避難していた。そして肝心のヘリウム3が消えている。

「ゆっくりでいい。何があったか話してくれ。コンテナはどこだ?」

「かかか、カネかね金庫…」

矢作の尋問がまるで通じない。真鍋の解析によれば船の乾質量は減ってない。そして乗船名簿の総体重と船全体の収支が合わない。

「もう一人…といっていいのか。います」

「誰だ?そいつは何処にいる?」

「さぁ。それを追求するか否かは隊長次第です。任務はあくまで修繕ですから」

「この!」

真鍋は鉄拳制裁で返事を受け取った。

「バリカンで髪と全身を剃り、ラジウムで毛根を不活性化し、入浴をさせ、生殖器と乳腺を除去しました。可哀相ですが必要な処置です」

ツルツルのマネキン人形が消毒液に沈んでいる。密航者と思しき少女の侵入経路は不明だ。よってあらゆる感染リスクを排除し、経過観察する。その鬼畜な所業を矢作は機械まなべにやらせた。

「機械と人間が対等の立場で同居出来るはずがないだろう。普通は」

明彦はガルダの人員構成に作為を感じ取った。

「そうだ。だが無茶を承知で載せた。普通でない奴らをだ」

矢作は少女の裸体とつるっぱげの津村を見比べた。二人とも水槽の底で呼吸している。

「!」

言葉も出ない。噂には聞いていたがポストヒューマンが実在するとは明彦も驚きを隠せない。

「南印度社はシヴァαで何をしてたんだ?」

隊長は資料庫を総浚いした。しかし手がかりは見つからなかった。



「寒いわね。彼女を見てるとこっちまで凍えちゃう。室温はどうにかならないの?」

早乙女が懇願するも却下された。矢作は血液感染を防ぐため、修羅場を凍結することにした。

「じゃ、せめて彼女に何か着せてあげて」

「しゃあねえな」

矢作は女の子に船内着を着せた。無地のビキニショーツとチューブトップだ。3Dプリンタの素材がそこで尽きた。

泣きじゃくる娘を鎮静剤で落ち着かせ、尋問を再開した。

「何があったの?」

早乙女が優しく問いかけるも沈黙したままだ。

と、その時、銃声が響いた。とっさに避けると明彦が床に転がっている。「銃を奪われました」

津村の姿がどこにもない。そして隊長の眉間が撃ち抜かれていた。

「おお!」

早乙女が瞳孔を確認して嗚咽する。

「僕が追います」

真鍋は冷静沈着だ。重量子ライフルを地球から取り寄せ、虚空から引き抜く。



「邪魔な髪が無くなって照合が捗るわ」

珠緒は豆粒大の頭部を望遠レンズで捉えた。骨格を照合し沙織本人と断定した。

「さて、あの女医をどうしたものかしら」

目にも止まらぬ速さで人影が交差し、無数の銃火が瞬いた。無菌室は内側からも破れない。

男と男が背中を合わせ振り向きざまに喉元を狙う。

「幾ら貧しても売っていい物と悪いものがあるでしょう?」

真鍋はお金の無意味さを説いた。

「うるさい。金で人の命すら買えるんだ」

津村は陳腐な正義を振りかざした。

「しかし、貴方の財産ではないでしょう」

「では被造物であるお前に問う。人命は平等ではないのか?俺と矢作の命を査定してみろ」

「僕は改定ロボット三則を遵守します。その質問は3条に反します」

「そうだろう。世界を敵に回せば自分が危うい」

介護士は勝ち誇ったように笑った。機械は銃をあっさり捨てた。

「それでヘリウム3はどう決裁したんです?」

その回答は天井にあらわれた。白無垢の一角が黒く欠ける。煤けた地球がみるみる拡大してカリマンタン島がクローズアップする。

人類首都クタイ。総人口2億の金融センターである。

ガルダ号の量子転送機は積み荷の宛先をそこに定めていた。

「貴女の由来がわかったわ」

早乙女はそこかしこに点々と残る凍てついた血痕を一瞥し、閃いた。津村と少女は乗員ではない。送り込まれたのだ。でなければ、ご都合主義が炸裂して二人を庇ったのだ。見えざる作用と思惑が肉片となるべき宿命を阻んでいるとは思えない。

ヘリウム3の採取とともにポストヒューマンはもたらされた。南印度社の想定内と考えるのが自然だ。そして内乱を煽った、いや、誘発したのは二人だ。いくら宇宙の孤独が人を狂わせると言っても船の運航を脅かす規模になるだろうか。やわな人間に飛行士は務まらない。クルーは外敵に対処したのだ。

「お前の思惑もだ」

カチャリと冷たい金属が押し付けられた。明彦の目が血走っている。そして、言い放った。

脱走を企てているのだろう。行先は民放キー局だ。少女を連れて実体化すれば時の人になれる。そして南印度社は崩壊する。

「半分は当たり。でも、その続きがあるの。奥さんのおなかの子、父親は誰だと思う?」

ニヤリと女の意地汚さが牙をむく。

「なっ――?」

明彦は狼狽えた。南印度会社の勢力圏において、子は宝だ。次世代の宇宙開発を担うため母子給付が手厚い。しかし、感染症が着床率を著しく損なったため、産める女性は引っ張りだこなのだ。

「私の元カレ。あの女が奪ったの。だからアンタを社会的に亡き者にして母子給付を取り消させるの。堕すしかないね。あいつの子を」

「俺はお前に恨み…」

早乙女は素早くスカートをたくし上げて拳銃を構えた。

「私はあんたの細君に恨みがあるの」


翼の裏で女はほくそ笑んだ。ガルダ号の制御をほぼ掌握し、室温に介入した。みるみる暑くなる。警報が鳴った。

「畜生!誰だ?!」

痴話喧嘩の矛先を病毒に振り向けねばならなくなった。血潮が融けて飛沫になる。

明彦と早乙女は防護力場に身を包み、修羅場へ走った。センサーが病毒に反応する。

「感染症は本当だったわ。闘争を煽る何か。持ち込んだバカが他にいるの」

すると廊下で真鍋と鉢合わせた。背後でゴウン、と隔壁が閉じる。

”電磁波を完全シールド。量子転送は出来ません”

船が無慈悲に脱出を拒んだ。「何をしやがる。三原則違反だぞ」

明彦が叱りつけた。しかし真鍋は聞く耳を持たない。

「あなた方の命令は聞けません。僕は主権を売り渡したんです」

「何だと?」

「何度でも申し上げます。僕の主人は彼らです」

「えっ?」

三人称の複数形に気づいたのは早乙女だった。

「彼らって?」

「もういい。下がってろ」

ポストヒューマンがロボットを押しのけた。


その頃、珠緒は騒動の隙をついて潜入に成功。一気に沙織の部屋を目指した。

「貴女が無事で良かった♪」

「お父様は何と?」

沙織は救世主に依頼主の消息を訪ねた。

「お前の愚行を認めた訳では無いが世界が動いたって」

それを聞くと娘は安堵の涙を流した。

「シヴァαに密航した甲斐がありました。私は頑固な父に現実を突きつけたんです。こんな姿になりましたが」

彼女は生まれ変わった身体をまじまじと見つめた。真鍋が施した処置は防疫ではなかった。ポストヒューマンに加工したのだ。

「人類にとってお金って何だと思う?」

珠緒が尋ねるまでもなく「希望」と答えた。

そう、換言すれば未来だ。人間は弱い生き物だ。たやすく死ぬ。抗う事が叶うなら道が開けるだろう。

例えば、強靭な肉体、病を撥ねつける強力な免疫。それらを兼ね備えた新しい世代。

「では、還りましょう」

珠緒が量子転送をガルダ号に申請した。

シヴァαは赤色矮星である。恒星になり損ねた低火力の星で核融合が1兆年以上も続く。そのため高度な知性が育つ余地がある。

ガス惑星は岩盤を持つ衛星を幾つか有しており、シヴァの原住民は人類より遥かに先行し物質文明を卒業していた。しかし、精神生命体としての生き方を追求するうち、ある問題が生じて行き詰った。

「そこで我が主君は原点回帰したのです」

真鍋は多彩なグラフや図式を交えて語った。肉体の再創造である。純粋な生存競争を営む小生物を開発した。互いに戦わせ、進化の新たな方向性を探ろうとした。

「じゃあ、あれは死体じゃないのか!」

明彦は仰け反った。パーツは発芽しようとする個体だ。

「早乙女さんには地球へ帰還していただきます。そして伝えてください」

真鍋からメッセージの詰まったキューブを授かった。旧人類にとって地球最大規模の悪魔、南印度会社の実態が暴露する。

「だが断る。俺は御免だ。地球とポストヒューマンだかの立場を交換しろ? ふざけるな。俺には子供がいる」

明彦は量子ライフルで真鍋を撃ち抜いた。津村は介護士だ。軍人の敵ではない。銃撃戦の末に袋小路で灰になった。

早乙女に至っては泣いて命乞いする所を丸焼きにされた。ポスト人類も所詮はシヴァ人の仮住まいだ。操り人形は鈍い。

「調子に乗るのはそこまでだ」

矢作が後ろから銃で狙う。

「隊長? いや、違う」

死にゆく明彦の瞳に進化した矢作のドヤ顔が浮かんだ。その肩をもう一人の早乙女が抱く。

「ヘリウム3を転送しましょう」

間髪を入れずガルダ号が秒読みを開始した。数分後に印度洋は熱波で干上がる。[

「で、明彦のバカは死んだのか?」

隔壁の向こうで津村が尋ねた。「はい。第二矢作が仕留めました」、と真鍋。

「結構。俺たちは究極の肉体を得て、支払いを地球で決済する。シヴァ人は物質文明復興の拠点を購入する」

”ウインウインとはいかないけどネッ!”

珠緒の大音声が船内に響いた。

「お前はっ?!」

ポスト人類は知覚を全開して居場所を探り当てた。船の制御中枢だ。

”地球を人間ごと焼き払って更地にするなんて肉体的苦痛を識らない精神体らしい発想ね”

「彼らシヴァが創った【新しい】肉体は感染症に耐性がないのでな」

津村――だったポストヒューマンは介護士時代を振り返った。老人を何人も看取ってきた。死因の多くは肺炎だ。

”精神生命気取ってるけど、やっぱり弱いのね”と珠緒は喝破した。

「弱さは力だ。不足を知ってこそ勝てる」

”どうだか?”

計器類が同時に悲鳴を上げた。最大規模の脅威が接近している。

「どうした?」

「主君、高熱源体が至近を通過しました」

真鍋は船を掠めた物体の弾道を計算し発射元を特定した。

「本船です」

あろうことか、ヘリウム3が弧を描いてガルダ号を襲っている。直撃コースだ。

”シヴァαに向ける事も出来るわよ。つか、固定したし♪”

珠緒はノリノリである。

「生かして還すものか。お前の目的は沙織だろう」

憎悪の権化と化した津村は肉塊を呼び集めた。たちまち制御室が蹴破られ、女二人を包囲する。

「精神生命って崇高な印象があったけど、俗っぽいのね。短気だし」

煽りまくる珠緒。もちろん、計算ずくである。

「当たり前だ!ものみなすべて行動原理は金だ。シヴァαにも貨幣経済が存続している。恩義の『貸しや借り』はあろうが!」

ワッと異形の群れが転送機に襲い掛かる。

その時、沙織が叫んだ。「貴方だって南印度会社に借りがあるでしょう!」

一瞬の沈黙。そして肉塊どもが消えうせた。

くっくっくと自虐的な笑いが漏れる。

「何故だ?何故、『弱さ』を共有している筈の生命体同士で格差が生じるのだ。お前は俺の弱みを握り、強い」

すかさず、珠緒が反駁した。「女だからよ。女子は弱者連合を組み、団結するわ」

「―っ!」

ぐうの音も出ない。

「貴方達も自分の弱さを認め、歩み寄る事ができれば、こちらも譲歩出来たのに」

ただ、肉体を捨て「完成された自分」を錯覚し、創造主を気取って「いたずらに競争を求める」生命体を作った。

彼らは他者の圧倒に終始し、そこで完結する。最強が進化の終着点。限界なのだ。

「共存しろというのか!」

量子転送機が白熱し、ガルダ号が爆散した。


「――気閘がロックされたままです」

ガルダ号を目前にして突入チームは成すすべも無かった。

真鍋の簡易スキャンによれば、特に異常も認められない。

「故障を治せというお達しだが――」

矢作もバツが悪そうだ。大山鳴動して何とやらである。

「とんだ無駄骨でしたね」

早乙女が項垂れる。「まぁ、余はなべて事もなしと言うからな」

明彦もすっかり拍子抜けして、帰りの量子転送を準備している。

そして心配そうに帰りを待つ妻の横で燐光が集合した。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「特に何もなかったよ」

「こっちは悪阻が来たり大変だったのよ」

「それはすまなかった」

夫婦は互いの見えぬ苦労を分かち合った。


「俺―は、死んだはずなんだが?」

矢作は南印度会社の人事部に死亡手当の申請をしたが「そのような記録はない」と却下された。当然である。


「津村? 労働英雄のツムラ氏の事でしょうか。彼は幾多の功績を遺し」

早乙女は受付嬢に言われた通り、社内報編集室の壁に彼の肖像画を見つけた。


それも今日で片付けられる。南印度会社はシヴァαの先住民と包括通称友好条約を締結し、無尽蔵のヘリウム3を供給される事が決まった。それに伴い、事業を清算する。量子転送技術のパテントをシヴァαに無償提供したからだ。今後、両星は互いの主権を侵害しない限りにおいて自由な経済活動が認められる。


沙織はポスト人類の代表格として、珠緒は彼女の秘書兼妻として星の海を飛び回っている。

人類の9割はお金がないままだが、恒久平和という換金できない富を得た。

お金―富という物は、結局、在る方が幸福なのか、無い方が豊かさをもたらすのか、機械である私には判りません。

幸福とは定量化できない有形無形の何かです。

ただ、私には維持費、減価償却といったコストが掛かりますが…


私はしあわせです。

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ステイ・ホームカミング 水原麻以 @maimizuhara

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