午後9時、神棚に異変が! 京都西陣の下宿の怪

チェシャ猫亭

あー。びっくりした

 はじめての一人暮らしは、18歳の時。あこがれの京都で、学生生活を始めたのです。


 上京区、大宮一条アガル、という京都独特の地名。これで手紙も届いてしまいます。ちなみに、上ルは北へ行く、サガルは南へ行く。東入ル、西入ルは、東へ行く、西へ行く、の意です。

 そこは、いわゆる西陣。カシャカシャと織機の軽やかな音に包まれる、京都らしい町屋が立ち並ぶ地区でした。

 私の下宿も生糸問屋だったらしく、表側は事務所として貸し、奥の三畳間が私の部屋でした。ウナギの寝床の、ごく入り口に近い方があてがわれたのでした。

 家賃は6千円。大学まで徒歩20分だし、申し分ありません。


 黒塗りの、引き戸の板戸をガラガラと開け、室内に入ります。木製の格子がはまった小さな窓があるだけの部屋。窓というよりか明り取りかな。部屋のどんつきには、また板戸。頭上には、なぜか神棚。左右一対の、お狐様が祭ってありました。

 この神棚の灯りが、午後9時ころ、ぱっと点灯! そして、板戸の向こうから、何かぶつぶつとつぶやく声が。


 はじめは、ぎょっとしました。声は、大家さんのおばあちゃんだし、お稲荷様の灯りは、向こうの部屋でスイッチオンしてるんだと、すぐ気づきましたけど。

 要は、こちらで祈りたいところを、私に貸してる部屋なので、しかたなく向こうから、ということなんですね。全く説明がなかったので、本当にびっくりしました。


 その部屋とは、三か月でお別れしました。おばあちゃんと、娘さんのけんかする声に、いたたまれなくなったのと、自炊したくなったのが理由でした。三か月とはいえ、本格的な京都の町家に住めたことは、いい思い出。午後9時の点灯と、ぶつぶつ声も、なんだか懐かしいのです。

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午後9時、神棚に異変が! 京都西陣の下宿の怪 チェシャ猫亭 @bianco3

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