As You Like

 どれだけ技術が発展しても、性風俗産業というのは廃れない。人間は性欲から自由になれないようだ。

 もちろん、今ではセクサロイドが一般的だ。機能は充実、顔から体型スタイルまですべて好み通りに調整カスタムできるというのに、それでも「人工物より生身の人間の価値が高い」という信仰を多くの人間は捨てては居ない。もしそうでなければ、自分自身の価値まで揺らいでしまうから。

 わたしの客も、そういった信仰の持ち主だった。そして実際に生身の女を買うだけの金があり、それだけの金を持っているからにはイロイロと黒い繋がりも持っている、そういう男たち。


 妾の目的は三つある。一つはこのカラダを女として使い物になるようにすること、一つは金を稼ぐこと。そしてもう一つは、妾の計画プランに必要なパイプを手に入れること。

 一つめと二つめの目的はすぐに達せられた。センセイはああ言ったが、見知らぬ男に抱かれるなど、別にどうということもない。計画プランに必要な段階ステップにすぎないのだから。それに、少し目を潤ませてみたり、敢えて不貞腐れてみたりするだけで男たちが意のままになるのは面白くすらあった。ボッチャンのあの男を手玉に取るなど造作もないことだろう。そうこうしているうちに金もすぐに貯まった。

 三つめは中々アタリに出会でくわさない。妾は店を転々とし、多くの男に抱かれた。アナタだけよとうそぶいて、宥めてすかして、退院したときは短かった髪がスッカリ伸びた頃、妾はついにアタリを引いた。


 少しばかり、変わった男だった。大枚を叩いて妾を買っておきながら、その男はセックスをしようとしなかった。ただ妾を着飾らせて、うやうやしい手つきで妾の爪を塗った。

「今ドキこんな仕事をしているなんて、欲しいのはキット金だけではないのだろう、何が望みだ」と、男は妾の左足の爪に真赤な刷毛を滑らせながら言った。

「過去に行きたいの」妾は答えた。「コッソリとね」

「誰かを殺すのか」

「いいえ、誰かを生まれさせるのよ」

 男は黙って、ただ手を動かしていた。

 そして、二十本の爪をすべて真赤に染め上げると、男は顔を上げて「手配してやる」と、こともなげに言った。

 それが余りにも呆気なかったものだから、妾は思わずこう口にしていた。

「アナタにはどんなメリットがあるの?」

「金とチカラで他人の人生に介入するのが俺の趣味なのさ」

 そんなふうに抜かしたものだから、少しどころか、余ッ程変わった男だったらしい。


 兎にも角にも、こうしてすべての手筈は整った。

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