記憶を取り戻してから失礼な態度を取り続けて晴れてメイドをクビになったのに、主人公をほったらかして口説きにきている王子様が諦めてくれない

@kirarasubaru

第1話 ピンチはチャンスになる、誰かが言った

私、エリ・ローライトは人と違うところがある。


「息子に対する数々の非礼、この度貴様は付きメイドをクビだ!」


例えばこうしてクビ宣言をされる…考えたくもないことだが、そんな状況下でも私は今自分の表情を出すまいと必死だった。

ああ、ついに待っていたこの時。前世を思い出してから随分長かったようにも思える。メイドでありながら悪役ポジションってどういうことなのだろう。このことを思い出した時本気で頭抱えたよ、いや本当に。

半年耐え忍んだ私に拍手を送りたい。


「それが王様の考えなら仕方ありません」

「…何も弁明は?」

「ないですわ」

冷ややかな国王の目。

自分がなぜ謁見の間にいるのか。よほど日ごろの行いが酷いと、王様の耳にまで入ったからだろう。たかがメイドの分際で、この場所に立てるとは思わなかったものですが。

狙い以上の効果を生んで良かったと思った。


王様のそばに佇み、困った顔をこちらに向けるブライアン・フレア・エルイドに私は向き直り、最後の挨拶を告げた。

「今までありがとうございました、ブライアン様」

これが最後の見納めだと言わんばかりの笑顔。彼に意味が伝わったのかわからないけどね。



私はそのまま謁見の間を後にしたのだった。





前世の記憶、というものがわたしにはある。

日本人として、今私がいる「ルカの涙」という乙女ゲーム。妹がプレイしていたもので、今までの乙女ゲームではなかなかない、メイドが悪役ポジションだ。悪役令嬢ならぬ悪役メイド。

あまりみたことのない設定に興味を覚えた私は説明書と人物紹介のサイトだけ見た。


そうしたら次の日ーーー日本ではない、いや、正確には地球でもない。このゲームの世界の物語にいたのだが、ちょうど事故で意識不明の重体から回復した彼女、エリ・ローライトの体に宿っていたのである!


心配そうなまだ可愛さが残るブライアン様が心配そうな顔でこちらを見ている。


そしてこの世界の私の名前を言った。


「エリ!よかった!目を覚ましたんだ!」


その名で思い当たる。

たまたま読んだ人物紹介のサイトの、主人公に対になるように乗っていた、悪役メイドのーーーエリ・ローライト。この日に王子様に微笑んだことでその笑顔が彼のドストライクに入り求婚されたが、彼が学園で3年生の時に出会った転校生、この物語の主人公・ルカに目移りしたことから、彼女からルカが散々いじめられる事を。


このメイドの何が怖いか、それは彼女が淡々と無表情でルカを責めるところ。

「鬼畜メイド」と界隈では有名らしいと妹から聞いた。

なんとこのメイドと仲良くなるルートもあるとかないとか。嘘だろ?


そんな事をまだぼやけが残る視界で、唸りながら思い出し、そして回答に至った。


よし!嫌われよう。


「どちらさま…でしたっけ?」

「エリ!?まだ記憶が!?」


あの時点ですぐに結論を出せたのはすごいと自分に褒めてやりたい。子供っぽくてしょうもないけど、私は悪役になりたいなんて思ってなかったし、ゲームをやり込んだ妹より私が、しかも悪役ポジションになんて、なんの因果か。

混乱していたのも、確かにあった。


そして、私は自分の運命を変えてみたのだ。


「随分と自信のない笑顔、知らない人と勘違いしてしまいました」


申し訳ございません。


改めて思うと結構ひどいな、これでメイドだぞ?


「何を…」

「私思い出しましたよ、あなたのことが嫌いだったって」


周りにいたメイドや執事が混乱した様子だったのも鮮明に覚えている。


「これから思う存分出していきますので、ぜひクビにしてくださいな」

「!」


それは明らかに、「ルカの涙」が壊れた瞬間であった。




それから半年。ようやく王様の耳に届いたのだ。


「よかったー!ブライアンさまが意に反して他のメイドや執事に「黙っててくれ」と止めにかかっていた時はどうしようかと思ったわ」


冷酷な視線。小馬鹿にしたような笑み。言葉遣い。


メイドにはあるまじき言動だった。


一週間ぐらいで切られると思っていたのに、さすが一目惚れされる人だ。補正ができたのだろうと数少ない荷物を持って王宮を出るために裏玄関にいた私はふと考えた。

これで王子様が私を解雇させないように裏工作してたらゾッとするわ。

伸びに伸びて我慢の限界だったし。


私じゃなければいいんだよね。これが普通のエリちゃんとブライアンさまだったらものすごく応援したくなるんだけど。

でもそれが彼が私が元いた世界で言う高校三年生の時にルカと出会うことで崩れると知っていれば、こうした方がいいのかもしれない。と同時に思う身勝手さなのである。


「長い間おせわになりました」


身の補償も一切ないが、なんとかなるだろう。


前世の知識がある。そして彼女の知識で頼れる友人がいることもわかっている。それを伝っていけば細々と生きれると思うのだ。


「バイバイ王宮!バイバイ悪役ポジションになるはずだった私!」


高らかに響く宣言。そして生きるのだ、王宮や王子様に縛られない。

自由な私の道を。


でも私は舐めていた。そしてまさかまた戻ってくるなんてこの時は思っていなかった。

王子様の執念。私がいることによるゲームの改変がどれだけすごいものか。

それは私の最大の誤算だった。

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