落ちこぼれダヴィンチ

BIG PLUM

第1話 気付き

 冷たい雫が肌を打ち、何の変化もしないようなこの空間で、時の流れを感じた。窓を開け、明かりを消し、ゆったりと風呂に入るのが日課だった。この暗く静かで快適な空間に居ることはぼくにとっての唯一の安らぎの時間であり、俗世と離れ、1人だけの自由な世界にいるようだった。社会から拒まれた僕は、いつからからこの空間に逃げ込む様に入り浸っていた─


 眼を瞑ったつむ。日々の光景が浮き上がる。周りの皆は何かしら得意なものがあった。運動、勉強、芸術。別に僕が全てが不得意だった訳では無かった。むしろどれも好きだった。水泳もやったしスケートもやった。他にも楽器を演奏したり絵を描いたりもした。だけど、これといって秀でたものが無かった。どれも必ずぼくより上がいてどれも勝てなかった。勉強も中の下くらいだった。器用貧乏?そう表現してくれればまだよかった。皆がぼくに貼ったレッテルは「中途半端な子」だった。色々なことを好きになるのはいけないことだろうか?

 

 さっきまで暖めてくれた湯船の中の液体は、完全に冷めきっていて体温を奪い始めていた。安らぎの空間が表情を変え、ぼくを追い出そうとしているように感じた。そして、今日と変わらない明日が近付いているのを感じた。外のミドリムシが照らす街はまだ明るかった。


 浴室を出る時にあることに気付いた。今までの安らぎの空間は姿を変え、とても醜くく見えた。

 「まるで懺悔室じゃないか。」

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