第6話 二つ目の【必】
「僕は別に君がどんな人生を歩んできたなんて知らない、でもね、君が不幸になろうと幸福になろうと関係ない、僕や大事な人を不幸にさせるなら、僕は君をこの世から抹消する。なぁ最後の命乞いを聞かせてくれよ」
僕は小声で独り言を呟いていた。
僕を尾行していた木々田くんがまるで豪邸のような家に入っていくのを見送った。
「僕は決めたよ、君が世界にばらまく不幸の種をここで摘み取ってあげよう」
人は色々な経験を経て変わっていく。
だが虐めを行った相手が成長して虐めをやめたとしても、虐めの被害にあった人は成長するのがとても難しい。
心に負った大きな傷は治るのに時間がかかる。
その時間を要するのにいじめられたりした人達は沢山の苦しみに人生を狂わされる。
虐められた事により人は他の人より違った世界観を持つようになる。
しかし虐めた人も虐めた事で学ぶ世界観がある。
中にはどうしようもなく救えない加害者ってやつがいる。
「なぜだ。なぜ、僕は生きていく事に罪悪感を抱かねばならない、なぜ、木々田みたいなやつがのほほんと生きている。確かに木々田はこれから成長するかもしれない、それは僕や沢山の人々の犠牲の上でだ。僕は木々田の台にならない」
僕は独り言を呟き続けていた。
豪華な家の前の扉で静止していた。
周りからは気配はない、なぜならここは田舎だ。
田舎の豪華な家の周囲には人っこ1人すらいない。
なぜここまで数日の出会いの木々田に憎しみを覚えるかというと。
僕の人生を狂わせた人々に似ているからだ。
木々田のしゃべり方や木々田の立ち振る舞いや、全てが僕の心を揺さぶり、僕の本性を引き出してくれる。
突然僕の頭の中が爆発するように激痛が走った。
意味が分からなかった。とにかく異世界から引き出される異界力が暴走を始めていた。
僕の憎しみが異界力の力を進化させようとしているのだろうか。
その時【必】に新しい力が宿ったのを感じた。
それは
心の中にいる7人の鼓動を感じる。
ブラッドリー、テッド、サイエンスター、コミュニティー、イーター、ガンド、ジョイドが心の中で暴走を始める。
そして俺はテッドに成り代わっていた。
これは多重人格の話ではない、考え方や思考パターンを切り替える異界力だ。
僕は僕でしかない、多重人格でもない、なぜなら全ての人格に僕が関与しているからだ。
僕がテッドになって人を殺そうと僕は覚えている。
テッドの記憶は僕の記憶、それは思い込むという力。
その技術は僕は知らない、この殺人の技術は異世界からもたらされた力だ。
右手と左手をこきこきとならしながら、目の前の豪邸の家の扉を掴む。
するとテッドの右手が素早く動く、ドアノブをがちゃがちゃと言わせた。
次の瞬間ドアノブが開いた。
どういう原理なのか僕にはわからない、ただがちゃがちゃすれば開くとなんとなく僕は知っていた。
「失礼しまーす」
テッドとなり得た僕はゆっくりと靴を脱いで丁寧に並べた。
「殺しの基本はスマートにだ」
僕はテッドになりきるのではなく、僕そのものがテッドになっている。
きっとテッドという力は異世界からやってきている何かなのだろう。
「まずはリビングを見てみましょうか、おやおや、水槽がありますねぇ、台所は綺麗に整えられております。どうやらペットはいないようです。昆虫図鑑が並べられていますねぇ、どうやら木々田くんは昆虫が好きなようです。写真は親2人と木々田くんだけですね、兄弟などはいないようです。おっと姉と妹もいないでしょう」
僕は2階の階段を忍び足でゆっくりと上がっていく。
周りを見回すと。
「おやおや、部屋は5部屋と言う所でしょうか、3部屋は個人の部屋で1部屋は両親の寝室で最後の部屋は物置と言ったところでしょうか、埃のような匂いがするので、奥の部屋が物置でしょうね、寝室は大人の匂いがしますし、問題は3つの部屋のどれが木々田くんの部屋かなぁ?」
僕は正々堂々とノックしてみせた。
最初の部屋をノックしても返事は返ってこなかった。
2つ目の部屋をノックしても返事は返ってこなかった。
「どうやら僕の運はあまりよくないらしい、では正々堂々とノックしましょう、それが紳士魂という奴でしょうかねぇ」
こんこんとノックすると、ゆっくりと扉が開いた。
「な、なん」
最後まで叫ばせる事なく、殺人のプロのテッドは木々田くんの口を手で押さえた。そのまま地面に叩きつけて、顔面を一発殴った。
それでも犯行するので、何度も顔面を殴った。
「君は人間としてどうかは知らない、僕には見せていない素晴らしい顔があるのだろう、だけど君は僕をターゲットにして虐めようとしたように、他の人達を苦しめるはずだ。僕はねぇ、もう嫌なんだよ、何も出来ないで、被害者ばかりが増えていく。加害者が成長しようとそんなこたぁーどうえもいい、おめーらが被害者を増やして、被害者は苦しむんだ。そうやって自殺していく人がいる。僕ぁ、君みたいな人間を皆殺しにしたい、そういう思考だ僕は、最後に命乞いを聞いてやらぁ」
びくびくと震えて、木々田少年のズボンがぐっしょりと濡れていた。
口元から手がどけられると、彼は逃げる事すらせず、つばを吐き出して叫んだ。
「この木々田牛村をバカにするなぁああああああ」
「なら僕をなぐれえええええええええええ」
だが彼はこちらに向かってくる事すらしない。
「こえーんだろうが、そうやって姑息な手ばかり、だからちね」
それによって、僕は普通の人間より人を軽く殺せる。
まるで軽めの運動をするように、両手で殴った。
殴って殴って殴った。
木々田くんの顔がぼろ雑巾のようになっていく、僕は格闘の達人ではない、ただ技術が僕を支えてくれる。
テッドとしての人格変容が殺人の技術を異世界から吸収している。
「あが、ご、ごべ、あがあが、ごべまなあががああ」
木々田は悲鳴すら上げる事を許されない、何度も何度も顔面を殴る。
僕の一発はいじめられっ子たちの一発だ。
僕の拳の威力は被害者たちの力だ。
僕のこの怒りは自分が変われなかった事への暴発だ。
いつしか僕は木々田くんの首を絞めて殺すのでもなく、包丁で刺して殺すのでもない、強すぎる拳によって頭をつぶされ、ぐちゃぐちゃな気持ち悪い顔をさせて彼は絶命していた。
僕はその死体を見て、人生で初めて人を殺した。
もう後ろに戻る事は出来ない、僕の死後は地獄かもしれない。
しかし誰も地獄を見て帰ってきたものもいない。
そもそも地獄はあるのかもわからない。
逆に殺したら天国だってありえる。
だが僕は死後の事を心配していない。
なぜなら死ぬつもりはない。
老後は死ぬだろうが、それも乗り越えて見せる。
僕は神に挑戦するだろう。
神すら殺す力を探すだろう。
僕は僕は僕は。
「はーっははっはっは」
僕は血の涙を流して笑っていた。
星々に選ばれた人間達~やられっぱなしはむかつくやり返すのだ~ MIZAWA @MIZAWA
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