全てが落ち着くまでの難関

 この状況を乗り越えなければ次に進めない。そう思いはするものの、精神的なダメージはかなり大きいです。心身共に弱り果てました。

 逮捕当初、Kは「俺はやってない」の一点張りだったそうです。ですが最終的に言ったのは「ついカッとなってやった」と言う決まり文句で認めたと聞きました。


 K逮捕後に、Kについた国選弁護人からの封書が届きました。

「被疑者は深く反省をしております。これまでの慰謝料を払い、示談にさせてもらえないでしょうか。もし少しでも話してみる気持ちがありましたらご連絡ください」と書かれた紙切れ一枚。当然、示談にする気はありませんでしたので連絡は入れませんでした。「反省している」と言うのも上辺だけだと感じましたし、弁護人が「そう言った方がいい」と言う話に乗っかっただけだと言うのが見え見えでした。


 何より示談にすれば、相手にとって有利になります。それに、例え100万積まれても1000万積まれても、私と息子の負った傷と時間は戻って来ませんし、たったその金額で僕にしたことを許したの? とさらなる傷を息子に付けかねません。


 少し話は戻りますが、K逮捕に必要な息子の被害届を私が出したわけですが、実を言いますと私も腹部に2回パンチをされており、その事実を息子が証明してくれたことでKは逮捕期間中に再逮捕されています。


 逮捕されて拘置所に置かれる期間は最大で23日ほどとなっています。その間に何か別件問題がありそれが逮捕に値するものであれば再逮捕になり、そうなると拘置所に留まる期間を10日ほどは延ばすことが出来ます。だから私も自分の分の被害届も提出しました。


 私の目まぐるしい日々がやってきます。

 警察に赴いて調書を取りながら児童相談所に面談に行き、警察からの指示により携帯の電話番号の変更、lineやツイッターなどのアカウントの削除を行います。そして同時に検察庁にも赴いて検事さんと面談し、今度は起訴するための調書も取らなければなりません。


 結果、Kの起訴が決定し裁判にかけられることが決まりました。


「お母さん、息子さんの代わりに代理証人として法廷に立ってもらうかもしれません。過酷な質問を裁判官からされるかもしれませんが、大丈夫ですか? 私たちはお母さんの援護は出来ますが、ここはお母さんが頑張らなければいけないところです」


 前もって刑事さんからもそう言われており、改めて検察官からもそう言われましたが、私には「無理です」と言う選択肢はありませんでした。

 もうやるしかないと覚悟を決め、ただ「はい」と答えるしかありません。


 その最中に、刑事さんより提案がありました。


「出来ればこの土地にいない方がいい。どこか県外に引っ越して下さい」


 警察署と検察庁、児童相談所に掛け合いながら引っ越し先を決めること、息子の学校の転校手続きを進める事、さらに当時私は生活保護のお世話になっておりましたので、ケースワーカーさんとの連携も取りながら、それらすべてを一か月以内に一人で並行して行いました。


 ところがここでもう一つ問題が持ち上がります。児童相談所はKが逮捕、起訴されてもなかなか息子を返してくれないのです。と、言うのも息子はアトピーと喘息を持っておりまして、Kと関わったことでその治療もさせてもらえなかったことが、親である私側の子供に対するネグレクトとみなされていたためです。


 相当気を揉みました。


 Kが拘置所から出てくるまでの間に全てを終わらせなければならないのですが、なかなか思うように進みません。


 刑事さん、ケースワーカーさんと話をしながら予定をたて、急ぎ地方に住んでいた母に見繕ってもらった物件の間取り図を送ってもらい、物件を見に一度現地に赴かなければならない。

 内件をさせてもらって即決し、翌日には戻る。引っ越し業者の見積もりを最低3社だしてほしいとケースワーカーさんに言われるも、2社しか通せず相談。今回は事情が事情の為2社で了承をもらい、一か月分の家賃を含める引っ越し資金を生活保護で出してもらう事になりました。

 その合間にも児童相談所、警察、検察庁を行き来しました。


 そうしている内に、警察の調書も終わりを迎え、引っ越し業者も決まり、後は身一つで転居するだけの状況になりました。しかし、児童相談所からはまだ息子を返すと言ってもらえないのです。


 引っ越しをしなければいけない。でも息子を返してもらえない。

 

 家の引き渡しは2020年8月6日に決まりました。丁度その頃にKも拘置所から解放されることになっていましたのでかなりギリギリです。児童相談所には8月6日の夜には県外に向けて出発するという旨を話ました。


 児童相談所側としては、私と息子の面談などの交流を数回試みて、大丈夫そうなら返すと言う順番を取りたいと言っていましたがそれは出来ません。


 状況が状況と分かっているのに融通が利かないのは、さすがお役所仕事だと皮肉に思いました。ただ、ここで私が歯向かえば息子は帰ってこないので穏やかにいなければなりません。

 児童相談所の担当の方も上司と掛け合って下さっているのは重々承知でした。


 結果、「息子をお返しします」と言われたのは、家の引き渡しの前日でした。ただし、保護観察と言う条件を付けられました。

 転居先の児童相談所の方に連絡を取り、しばらくは保護観察を付けると言う条件の元返してもらえることになったのです。


 被害者側は、こんなにも多大な労力を強いられます。加害者となった側もまた違う意味で労力を強いられるのでしょうが、どちらにしても疲弊するのは目に見えていますし、もう二度と味わいたくない。警察の世話にだけは二度とならないと心に強く誓った瞬間でもありました。

 

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