フェイセス faces

水原麻以

【第一章】惑星アバタモ

もみ手をして接近する奴には下心がある。しかし、心を開かねば他人もまた門戸を閉ざす。そんな自家撞着が顔に傷を作ったのかもしれない。

逃れるように家を出た父を探して銀河を3つ横断した。たどり着いた先に本人がいた。まだ仮面を被っていた。

「しかめっ面をするかと思ったら、意外と平気なんだな」

どん底人生を歩む彼がどんな表情をするか楽しみだった。最果ての看守は父の性分にお似合いらしく、娘を閉口させるだけの厚顔無恥があった。


美醜戦争を勝利に導いた勇者が辺境の監獄で薄給に喘いでいる理由はたった一つだ。凱旋将軍たちを乗せた舟艇を墜落させた。父が原因だ。表情一つでお歴々の顔に傷がついた。文字通りだ。戦勝パレードを台無しにされ、大統領の面目が潰れた。それで直属の上司である彼らと父に連帯責任が問われ、命は助かったが社会的生命が絶たれた。死亡者ゼロが幸いして父は銃殺刑を免れた。流れ流れて惑星アバタモの採掘現場だ。


「臭いと不潔は予想より少し悪い程度。それより元気そうで良かった」

私はフェイスプレートの数値を総合判断した。スモークガラスの目鼻口にあたる部分に円グラフや数式が灯る。それを視神経に直結したチップが読み取り私に助言するのだ。吐息がかかるほど近いのに、こんなに遠くて胸が苦しい。


「お前こそ、よく一人で来れた」

「顔パスだったわ。どのツラさげて逢いに行くのか、親に瓜二つだとか、さんざん顔のことを言われた。それで行く先々をスルーパス、VIP待遇。一番、面白がったのがヤヌス准将」

「…! あの若づくりババア!!」

「あら、親切で素敵な美人だったわ。性格はブスだけど。大佐の娘だと知ったとたん、よくしてくれたわ。最高の旅だった」

「そこまでされてお前は平気なのか…」

プレートの数字が真っ赤に染まった。

「大勢の顔を散々潰しておいて…よくいうわ」

痛い所を突かれたと思ったのか、数値が濃紺になった。

「いう事はそれだけか。母さんやサリーは仲良くしてるか?」

予定通り、近況を知りたがったので私は今回のメーンエベントに取り掛かった。

スカートのポケットからホロ写真を取り出す。一瞥するなり父の数値かおいろが変わった。

「母さんの新しいパートナーだって。先週、家に来たわ」

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