エンドロール
今日も憂鬱な朝だった。だが、何故かほんの少しだけ気が楽だった。
この街に来てから、ただでさえろくなことがないのに、牛丼高校に入学してからは更にろくなことがない。
モヒカンに絡まれ、久しぶりに再会した初恋の女の子と一緒に居たら不良に絡まれ、散々だ。
だが、無燈君と出会えたことが、唯一の救いだろうか……。
今日は何事も起きず、静かに学校生活を過ごせることを願って、僕は家の玄関を開けた。
今日は全校朝礼があるようで、体育館内に生徒達が集められた。
右を見ても、左を見てもガラの悪い不良の方々ばかりが目についた。中には金属バット、釘バットや鞭を持った生徒も居た。
体育館内が殺伐としている……。やっぱり、この学校のどこかおかしい……。
隣には無燈君が居た。彼はだるそうに大きなあくびをした。
「なぁ、たいら。これからなにが始まるんだ?」
「朝礼だよ。朝礼」
「なんだ、そりゃあ?」
「校長先生が話をしたり、校歌を歌ったり……」
「……なんで、そんな面倒なことするんだ?」
「んー。そう言われると、なんと答えていいのか……」
無燈君の右手には、まだ包帯が巻かれている。
「コラァ!そこぉ!喋るんじゃない!!」
いきなりの大声に僕はビクッとした。
大声を放ったのは、この学校の教頭先生。スーツ姿の白髪頭で、これと言った特徴のない中年男性だった。
教頭先生はマイクを持ち、
「いいか、お前ら!これから、朝礼を始める!今から、お前らのような腐った果実共に向けて、校長先生からありがたいお話がある!!耳の穴をかっぽじって、心してよく聞け!!」
と叫ぶように言った。
この教頭。教員にしては、ちょっと口が悪くないか?腐った果実ってオイ……。
そういや、入学式はいろいろあって遅刻したんで、この学校の校長を見たことがなかった。どんな人だろう?
そう思っていると……。
バルバルバルバルバル!!!パパパパパーン!!!
耳に穴が空きそうなほどの爆音が体育館内に響いた。
なんだ!?なにが起きたんだ!!
周囲が騒然となっている。
さっきまで眠そうにしていた無燈君まで驚いている。
「誰だ!こんなデカい屁をしているのは!?」
当然、放屁の音ではない。むしろ、これが放屁の音だったら病院へ行った方が良い。
すると、当然、体育館のドアがパアーンと開いた。
皆、体育館のドアに目を向ける。
そこには、アメリカ産の大型バイクがあった。この爆音はあのバイクからだ。
バイクには上半身裸で黒革のズボンとブーツを履いた男が乗っていた。男はまるでヴィジュアル系バンドのようなツンツンした髪型と、アイシャドーや口紅などのメイクをしている。
なんだこの男は?まさか、この学校に殴り込みに来たのか!?
無燈君は、いきなり現れた男に驚きつつ、
「オイ、たいら……。あいつ、ヘルメット被らないでバイクに乗ってるぞ……」
こんな非常事態に常識的なことを言うのか、お前は。
いきなり現れたV系男はバイクから降りた。そして、どこから取り出したのか、黒い革のジャケットを着た。
生徒達が驚いている中、V系男は体育館のステージに向かって歩き、階段を上り、壇上に立った。
そして、男はマイクを握る。
「罪深き果実達よ。
なにを言っているのか、全然分からなかった。
男はそれだけ言うと、ステージから飛び降りた。そして、バイクに向かって歩き出す。
意味が分からず、呆然とする生徒達。
男はバイクに跨った。
バルバルバルバルバル!!!パパパパパーン!!!
またバイクの爆音が体育館内に響く。男はそのままバイクに乗って去って行った。
爆音が次第に小さくなっていく。
僕は唖然とした。僕だけじゃない。全員が唖然としている。
「オイ!あいつ、ノーヘルだぞ!!いいのか!!」
無燈君だけは平常だった。いや、今それどころじゃないだろ。
なんなんだよ、今の男!
いきなりバイクで現れて、ステージに上がって、意味の分からないことを言って!
どう見てもヤバイ人だろ。なんで、不審者が来たのに、教員の方々は黙っているんだよ。警察に通報しろよ。
僕がそう思っていると、教頭はマイクを持ち、
「……以上。校長先生からの挨拶でした」
完
銀髪とモヒカンと僕 団子おもち @yaitaomodhi78
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