第41話 仮面の騎士《MASKED KNIGHT》



 力なく手足を放り出して、床に倒れ伏したフェイリス。奴を撃ち抜いたアッシュは、器用に奇術師顔負けに、指先でくるくると拳銃を回しながら近づいてくる。


「いやぁ、驚くほど上手くいったぜ、我ながら」


「……よくあんなタイミングで来れたな、アッシュ。正直わりと、やばかった」


「空気を読むのは得意なんでね。……あと、お前がやばい状態なのは変わりねえだろ」


 ジロジロと満身創痍なオレの体を見回して、アッシュは、


「まだ動けそうか?」


「なんとかな……。そっちこそ、オレを一人で戦わせた成果は出たんだろうな……」


「おいおい、結果的には勝機になったんだからいいだろうが。……それはそれとして子供たちは、ちゃんと……なんつーか、大丈夫だったよ」


「大丈夫って、……なんだよ」


 どうにも歯切れの悪い答えだった。


「ま、あれだ。——地獄にも花が咲いてた、ってな話だよ」


 と、アッシュは無理やり会話を打ち切った。

 こうにも爽やかな笑顔で言われるとどうしようもない。


「そうかよ」


 言って、足を一歩、踏み出そうとしたが、かくんと直角に崩れてしまう。膝はやはりすでに限界を迎えていたのだ。


「やっぱ、お前が大丈夫じゃねえじゃねーか」


 ごく自然な動作で肩を差し出すアッシュ。オレも自分の調子をよくわかっているので、大人しく甘える。


「何でやられた?」


「槍だ。腹をえぐられた」


「……よく致命傷にならなかったな。お前マジで、運いいよ」


 敵にも言われた褒め言葉(?)を言いつつ、アッシュはどこからともなく取り出した治療薬ヒールポーシヨンを患部にぶっかけてくれる。気休め程度ではあるが、傷口が少しだけ塞がった。

 続いて包帯で、止血。

 これで、あと少しだけは動ける。


「応急処置完了! ほんと応急だけどな」


「自分が一番わかってる。治療するためにも早く——」


 ニアのところへ。

 そう言おうとした時。

 ゾゾッと。体に電撃が走ったような感触があった。横のアッシュも、ぴたりと足を止める。

 すぐそばの実験室へと向かっていたオレたちは、同時に背後を振り返った。

 そこで、

 胸に銃弾を撃ち込んだはずなのに、フェイリスが、はキリキリ体を起こしていたのだ……。


「…………ここで終わりなんて……くだらねぇ。まだ、まだ、俺は……!」


「「……ッ!」」


 すぐさま武器を構えようとするも、血を多く流した体ではまともな姿勢を維持するのすら難しい。


「胸撃ち抜いたんだぞ、どんな生命力してんだあいつ!」


 代わりに再び銃を引き抜いたアッシュが、引き金に手をかける。

 それを目の端で捉えた、その時——。



「——待ちなさい」



 冷涼な、声。

 血みどろの狼人ワーウルフが足掻くその奥に、金の髪の少女が立っていた。見覚えのない女だ。しかしアッシュがふと漏らした、あんた、さっきの……、という声。


「……知ってんのか」


「ついさっき、な」


 オレはそれを見て疑問に思う。新たな敵の出現、状況はより過酷になっているはずなのに、明らかにアッシュからは戦気が抜けている……。

 一方で、射るような眼差しをこちらへと向けるフェイリス。ただ、まっすぐにすら歩けておらず、ツカツカと寄った少女にあっさりと抱き抱えられる。小柄な少女が取るにふさわしくない行動ではあるが、不思議と様にはなっていた。


「お互い、騒ぎすぎたわね」ふと、少女は言う。「もうすぐ守護者アテネポリスが来るわよ。『目的』があるなら急いだ方がいいんじゃないかしら」


教えちゃって、いいのか?」と、アッシュ。


「物事には優先順位があるの。それだけよ」


 言い放って、踵を返す少女。なんと背中を見せて離れていく。もはや誘っているのかというレベルで無防備だった。


「なんなんだよ、あの女……」


「敵も一枚岩じゃねえってことだろ。イカれ魔工技師マギアクラフターは地下でてんてこ舞いだってのに、『助手』は男、助けに来てんだからよ。……つーか、お前はさっさと行ってこい」


「……ああ」


 わかってるさ。

 思うように動かない体に鞭打って、屋敷の中央へと。向かう。


「そこの窓から『道』作っとくけど、飛べそうか?」


 手だけ上げてイエスと返して、前へ進む。

 喋る力はなるべく取っておきたいし、青い顔をした騎士様なんてつまらない。


 ——無理にでもカッコつけるのが男だ。



   ***



 ニアは闇の中で、瞳を開く。

 夢に浸っていたかったのに。夢だけが幸福だったのに。

 定期的な電気ショックのせいだ。


「……ッ……ッ!」


 まともなうめき声すら出せずに、ピクピクと体を震わせて。

 すぐに。

 肉体の隅々に入り込んだ、異物感だけの世界。

 静寂。

 急な魔法音とともに喉に流れ込むドロドロとした液体。咽せる。反射で逆流するも、すぐに検知され再び強制的に流し込まれる。

 静寂。

 破裂しそうな膀胱。我慢できないと限界すら突破すると感じたその時、開放感が押し寄せる。

 静寂。

 突っ張った胃腸。荒れ狂った腹鳴が体の内部で響き、張り裂けそうなその時、開放感に包まれる。

 次は、電気か、何か。

 まだ来ない。

 次、……次?

 どうして。なんで来ない。こんなに待ってるのに? 刺激。早く来いよ。おれは、待ってる。我慢できないんだ。とにかく欲しい。なんでもいいから。もしくは眠らせて。薬でも、魔法でも、いいから。死ぬ? 死にたくはないけど、眠らせて。まだ? ……まだ? いい加減にしてくれ。限界に感じてる。おれはもう壊れても、いいんだ、けど、頼むから。電気でいい。電気電気電気電気。もっと感じさせて。何もないのは無理だ。眠りたい。答えろ。答えて——。

 。刺激が欲しいの。中に、もっと入れていいから。動いてよ。動け! ねぇ。聞こえてるんでしょ? が人形だったら、もっと動かして、遊んで、壊してよ。無理無理無理。もう耐えられない。眠らせてよ。無理なら強く動かして。強く強く。……ほら。ほらぁ! なんで? なんでなのよ。

 ピリ。ピリピリ。ピリ。

 来た。来たわね。これよ。ほらもっと強くしなさいよ。うん、うん。……え、もう終わりなの? はぁ。ちょっと足りないんだけど、あれ。ねえ、見てるんでしょ? じゃあいいから。突いて、突きなさいよ。調子緩いから、強く動かして。刺激。刺激が。刺激刺激。

……。…………。

 ……………………ああ。

 クソ。使えない。

 ニアは、声にならない声で、必死に淫らに、哀願した。無い尻尾を振って、ギシギシ。ギシギシ。

 何日。いやきっと何時間も経ってない。


 …………疲れた。


 考えることすらも疲れ果ててしまった。

 皮肉なものだ。そうやって諦めて、投げ出してしまってすぐに、求めていたはずの刺激が訪れる。でも、決してそれは求めた基準を満たしていない。

 遠からず、自分は壊れるだろう。

 その確信があった。

 自棄になっているのはわかっていても、先ほどの自分は限度を超えている。


 願わくば、早く。その時が訪れますように。

 こんな惨めに、弱くなってしまった自分が消えてしまいますように。


 そう祈って。






 ——誰か、たすけて。






 聞こえないなら、言ってしまえばいいやと思う。

 心の中でだけなら。

 壊れるまで、望み続けよう。

 助けて。タスケテ。たすけて。



「……………、……」











「——ニア、助けに来たぜ」

 


「光」が差した。



 固く全身を縛められているニア——らしきものが、煌びやかな部屋の中央に鎮座していた。

 芋虫みたいにもぞもぞと蠢いているが、全身拘束の上からさらにベルトで抑えつけられており、ただただ無駄な足掻きと化している。

 正直言って思っていた状況と違ったが、こうまで激しく動けているのなら、最悪の結末は迎えてないのだろう。

 ホッとして、まずは彼の閉ざされた視界を開放すべく、被せられていたヘルメットみたいなものなど各機器を外した。

 助けに来たぜ、と呼びかける。

 絶対に、これだけは伝えたくて。

 ……彼の方は、棒状の猿轡を咥えさせられていたらしく、ケホッケホッと咽せていたのでどれだけ聞こえていたのかわからないけど。


「え……あ……」


 でも、涙ぐんで、信じられないものを見るような目で見上げてくるニアは、本人が聞いたら間違いなく怒るだろうけれど、子供っぽくて愛らしかった。


「すぐに拘束を解いてやるから、ちょっと待ってろ」オレはナイフを取り出して、ベルトの切断にかかるが、「…………、かってぇな、これ。クソ、無駄にごちゃごちゃしてるし……」


「なに、して……」


「いま集中してるから黙ってろ。…………、……。あー、めんどくせぇな。一旦、台座から切り離すか」


 複雑怪奇な魔法機マギアクラフトから伸びるさまざまな機器が、ニアへと繋がれていた。おそらく生命維持装置であるそれに、オレは一斬。青白く光っていた魔法機マギアクラフトは急速に輝きを失った。

 これで準備は整ったと、大地ノ剣を抜いて、


「じゃあ、引き剥がすぞ」


「なにを……、」


「体ごと斬るようなヘマはしねえから安心しろって」


 ザンッ、と。

 軽い斬撃音とともに、ニアが台座から切り離された。思いの外、勢いよく分離されたニアが受け身も取れずに地面に転がる。


「悪い! でも時間がねえんだ。そのまま動くなよ」


 ちょうどうつ伏せに倒れたので、ニアは背中を見せた状態だ。そのまま拘束衣も断ち切るべく、もう一振り。


「あ。ちょっ、待って——」


 ニアの言葉は虚しく、硬い布の表面を刃が走った。

 大丈夫。確実に布だけを斬った自信がある。


 ハラリ。

 背中を二分するように、白い縛めはずれ落ちて。


「え——」


「〜〜〜〜っ」


 ニアの「裸」が露わになった。

 ……想定していなかったわけじゃない。たとえ下着すら身につけていなかったとしても、この際だから仕方ないと思っていた。

 でも、これは。

 認識の許容量を軽くオーバーフローする光景が、目の前に。

 そこには。

 全身に「墨」が刻まれた「女の子」が、自らの体を抱きかかえるようにして、震えていた。

 ではない。ある意味で、ニアから全く女を感じさせなかった薄すぎる胸板にも変化があった。

 黒く淫らな模様に埋め尽くされた側胸部から、特大の起伏が盛り上がっていたのだ。でかい。レインに勝るとも劣らない代物だった。


「………………すまん。配慮が……足りなかった」


 人間、驚くことがありすぎると、逆に俯瞰的に物事を見れるようになるものだ。

 謝りつつ近づき、脱いだマントを雑な動きでニアに被せた。


「〜〜〜〜」ひったくるようにマントを羽織ったニアは、刺すような視線をオレに向けていたが、やがて、「っ……どうして、アンタが……ここにいるの」


 それだけを。ようやく吐き捨てるように言った。


「あのな、この状況でどうしてとか聞く必要あるか?」


「なんで……! 来てほしいとか言ってないし! ………こんな危ないところまで……! そんな、ボロボロになって………」


「……。なんでってそりゃ——仲間が攫われたら助けに行くだろ」


 まなじりの雫を気にも留めず感情をさらけ出すニアに対して、ごく当たり前のことを伝える。

 約束したからなんて、いちいち言わないけれど。


「アッシュもバックアップとして協力してくれてるから、脱出の手引きはできてる。オレもあいつも、怪我はしてない。他に何か聞きたいことはあるか? あるなら手短に言え」


「…………」


 ニアから、答えはない。


「……よく考えりゃ、急に動き回ったりできないよな」


 話は後でもいいかと、ニアを抱きかかえようとしたヒロに。


「……。のことは、聞かないの?」


 ぽつりと、「彼女」はそう尋ねた。


「……あー、オレが一つだけ言いたいことはだな」ヒロはガシガシと頭を掻いて、「——自己犠牲だけはやめとけってことだ」


 そんな方法を取る奴は、オレだけで十分らしいからな、と。

 だってこれは、戒めの言葉。

 レインから、オレがしたという自己犠牲についての。

 どの口が言っているんだと言われれば、それまでかもしれない。だが、レインの言動の一つ一つを見聞きするたび、強く実感する。

 大事な人を失いたくない。

 ただそれだけの感情。


「まあ、自分を犠牲にしてでも大切なものを守りたいってのが、男心だけどな」


「答えに、なってない……」


 あくまでも軽い口調のオレに、面食らった表情のニア。

 そんなニアを見て——本当におかしく思って笑う。

 そうじゃないって顔してるけどな、こっちだってそうじゃねえんだよ。

 お前女だったのかよとか、その刺青はなんなんだとか、そういうは一旦置いといて——。






「いいから帰ろうぜ。——お前の家、ここじゃねえんだから」














「…………うん」






   ***



 仮面の騎士と将軍の戦いは、苛烈を極めました。

 仮面の騎士は何度も何度も斬りつけますが、将軍の振るう大剣と、鋼鉄の鎧に何度も塞がれてしまいます。


 何度も、何度も。

 攻撃を防がれるたび、仮面の騎士は吹き飛ばされますが諦めません。

 何度も、何度でも立ち上がります。


 しかしもう、体はボロボロです。

 最後の一撃に全てをかけて走り出そうとした、その時。

 突然、将軍が膝から崩れ落ちました。


「何が起こった!」


 見ると、鎧の隙間であった膝の後ろに弓矢が突き刺さっているのです。

 その弓矢は狩人が使っていたものでした。


 続いて、将軍の周りの地面に不思議な模様が浮かび上がります。

 急いで逃げようとする将軍ですが、思うように動けません。

 結局、大きく開いた落とし穴に落ちてしまいました。

 これは、魔法使いの仕業に違いありません。


「さあ、挟み撃ちだ。仮面の騎士」


 いつのまにか将軍の後ろに立っていた剣士が、仮面の騎士に向かって言いました。

 仮面の騎士は頷きます。


 みんな、逃げたわけではありませんでした。

 まともに戦っていては勝てないと、隙を見て攻撃する機会を待っていたのです。


「とどめだ!」


 いくら歴戦の将軍といえど、まともに動けなくては二人の剣の相手などできません。

 あっさりと、仮面の騎士に首を刎ねられました。



「作戦成功だ」


「俺の狙撃のおかげだな」


「いーえ、私の魔法のおかげよ」


 仲間たちが、駆け寄ってきます。


「君たちみんなのおかげでここまで来れた。本当にありがとう」


 仮面の騎士は、仲間たちに深く感謝します。

 仲間たちは、いいから早く行ってこいと、仮面の騎士の背中を押しました。

 仮面の騎士は、将軍の城の最上階、奥の部屋へと向かいます。



「助けに来たよ」



 仮面の騎士を見たお姫様は、涙を浮かべながら言います。



「あなたはどうして、私を助けにきてくれたの?」



「君にはずっと、僕の近くで笑っていてほしいんだ」

                     』



   ***



 月夜の、下で。

 クラムの屋敷をからがら脱出したオレとニアは、肩を支え合いながら歩いていた。


「……別に送ってくれなくても、一人で帰れるのに……。子供じゃないんだし」


 ボソリと、ニアがぼやく。


「いいんだよ、そんな気ぃ遣わなくたって。ただでさえ疲労困憊してんだから」


「それはお互い様だ。…………今自分がどんな顔してるか、わかってんのか?」


「どんな顔だよ」


「…………めちゃくちゃ………………………くせに」


 小さく早口な声は、風に流されて届かない。


「え、なんだよ?」


「〜〜〜〜っ、うるっさいわねっ! しょうもないこと、いちいち聞いてくんな!」


 痺れを切らしたのか、ニアの口調が爆発する。


「……あ、やっと口調が変わった」


「こっちだって、これでも気を遣って喋ってたのよ!」


「そうだったのか?」


 そうだったの、とニアは言ってから。


「…………。やっぱり、その、変? 女みたいな口調は……?」


「……そりゃ違和感はあるし、前の方が『らしい』んだろうけど——」少なくともオレが知ってるのは「前」のニアだけれど、「ニアはニアでしかねえからな。そんなのオレが知るかよ。自分で決めろ」


 それは、彼女自身が決めることだ。


「そっか。…………ま、まぁ! 『私』はニアじゃないから、関係ないんだけどねっ!」


「…………はあ?」


 今のさっきで、何言ってんだ、こいつは。


「……んな、馬鹿な。もしお前がニアじゃないってんなら、オレはいったい誰を助けに行ったんだよ」


「私の名前はメア。アンタと今までパーティーを組んでたのは、そう。実は双子の妹よ。ニアは私の兄ぃなの」


 身振り手振りを交えつつ、早口で語り始めたニア。目が明らかに泳いでいた。


「はあ……」


「驚いた? 驚いたわよね?」


「驚いたっつーか……」


 呆れた。

 これ以上、同じ顔の奴がいてたまるか。


「いや、お前な…………もういいや。めんどくせえ」


「そ、そうよ。私は……メアはめんどくさい娘なの」


「…………あー、それよりもさ。言いにくいんだが、見えてるぞ」


 興奮し過ぎて前がガラ空きになっていたニアに、いい加減忍びなくて伝えてやる。


「っ……、見るな、変態! 鬼畜野郎!」


「見せてきたのはそっちだ」


 オレだって、こんな状況のチラリズムでは興奮などできない。

 ……いちゃもんの付け方はいつも通りなのな。


「あの軽薄男が、服を用意してくれてるんじゃないの?」


「軽薄男て……。まあ、そのはずだったんだが、急に用事ができたとか言ってどっか行った。ああ見えて忙しい奴なんだよな……」


「どうせ酒場の女のところでしょ」


「違いねえ」


 実は追手を撹乱するため、オレたちの変装をして動き回っていることは知っているが。アッシュ本人にそう言っとけと言われたのだ。なんなんだろう。


「…………」


「…………」


「………………。その……、うーんと、……いい月夜ねっ」


「……ほんとだな」


「…………」


「…………」


 そっぽを向いたまま、再び黙り込んでしまうニア……じゃなくてメア。

 どうしようもないので、前を見て歩くオレの耳に。



「 …Csiql ukt. —ou fezzagnieairna.」



 かすかな囁きが届いた。

 

「……なんて言った?」


「独り言だから。いちいち気にしないでよねっ」


「そうかよ」オレもこれ以上、追求しない。「……着いたぞ」


「うん……」


「とりあえず、顔見せてこいよ」


「わかってるわよ」


 ニアは、もう夜は更けているのに未だにぽつりと灯りがついた家の、扉に手をかける。


「……アンタは、会わなくていいの?」


「あとでな」


「そう……。じゃあ、行ってくる」


「ああ」


 行ってくるって、なんだよとは思ったけれど。

 あの憑き物が取れたような顔を見れば、体張った甲斐があるというものだ。



 ————温かい声にシークリット家が包まれたのを聞きつつ。

 オレは力尽きてぶっ倒れた。


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