第7話 初見詐欺

『配信おつヨナ~!これからクリスマスの繁忙期なのでしばらく配信減るかも!

世の中のリア充倒すしかないわ……人間め……』


 配信で言い忘れた連絡事項も書いてツイートをする。いつも通りリプライをくれるリスナーに返信をしていると、通知欄に見覚えのないアイコンが現れた。

 「山田」と書いてある。さっきの初見さんだ。ホームにとんで見ると、私へのリプライ以外のツイートが見当たらない。アカウントを作ったばかりなのだろうか。


『おつヨナ?笑 

ゲームは下手だったけど雑談は割とおもろかったわ笑笑』


 山田からのリプライにはそう書かれていた。ゲーム配信、という言葉を見て、一つの疑問が浮かんだ。もしかしたら、「あ」と同一人物かもしれない。

 やたらと「笑」をつけているところとか、無意識のうちに人を見下していそうな文章の書き方が「あ」にそっくりだった。でも、まだ確定したわけじゃない。きっと疑心暗鬼になっているだけだろう。それに、ゲーム配信もアーカイブで確認しただけかもしれないし。


『ゲームも見ててくれたんだ!ありがと!』


 気丈に振舞ってそう返信を送る。気のせいだ、と思い込めば思い込むほど余計にぐるぐると悩んでしまう。先にブロックしておいた方が、後々自分のためになるんじゃないか。でも、もし本当にただの初見さんだったら、というような思考を何度も往復している。


 結局、山田のことはブロックしなかった。あの日以降も山田は配信に現れたけれど、特別私に暴言を向けることもなく、けれどどこか刺々しいコメントを送ってくる。

 それと同時に、私の配信の雰囲気は変わっていった。



×××



 ゴトンとスマホを床に落とした音でハッとし、自分が二度寝していたことに気が付く。時刻は七時半、まだ仕事には間に合う時間だ。

 それにしたって、わざわざ半年前の夢なんか見なくていいのに。

 あのときから、私の配信頻度はひどく減った。繁忙期に入った後なかなか配信をやる気にならず、今では週に一回だけはやると決めている。

 布団を剥いでベッドから降り、バタバタと仕事に行く準備をする。パンを焼いている間に顔を洗って服を着替え、いつもならコーヒーを入れるところを牛乳だけマグカップに注いだ。

 焼けたパンを牛乳で流し込み、皿とマグカップを流しにおいて、水につけておく。急いで食べたせいで、胃がもやもやと気持ち悪かった。

 床に放置されていたカバンを拾い上げ、黒いスニーカーに足を突っ込む。玄関の扉を閉めるときに、帰ってきたら配信があるんだ、と自分で決めたことなのに少し憂鬱になった。

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