第5話 見慣れないアカウント
『配信おつヨナ~、なんかすっごい疲れちゃったのでもう寝る!
人間おやすみ~』
配信を切って流れ作業でSNSの画面にそう打ち込み、ツイートボタンを押すと体中にドッと疲れが押し寄せた。頭が重い。全部自業自得なのはわかっているけれど、今日の配信のことは忘れてしまいたかった。
(アーカイブ非公開にしようかな……)
したらしたで余計に何か言われるかもしれない。でも、まだアーカイブを見ていないリスナーにあの配信を見られたくない気持ちもある。
どうしてあんなアンチのことばかり気にしなければいけないんだろう。上手く切り替えることのできない自分に嫌になる。
考えることを放棄してSNSの画面に目を向けると、いつも通りリスナーたちからリプライが届いていた。
『おつヨナ~、おやすみ』
『おつヨナでした!ゆっくり休んでね』
いつもなら全部にすぐ返信するけれど、今日はそんな気力もない。ぽつぽつとリプライが増えていく通知欄を眺めていると、見慣れないアカウントからの通知がきた。
『あのゲームやめろ』
ついにか、という気持ちと、もう放っておいてくれという気持ちが沸き上がり、思わず頭をかきむしった。
何のこだわりがあるのかそいつのアカウント名は相変わらず「あ」で、アイコンは設定されていない。
私は正直もう疲れきっていて、これ以上こいつに心身を侵されたくなかった。そいつのプロフィール欄に飛ぶと、『月島ヨナとかいうVTuberゲーム下手すぎ笑』と、ご丁寧にフルネームでつぶやかれているのを見つけた。
「うるさ……」
右上の丸いボタンをタップして、「あ」をブロックする。
『「あ」をブロックしました』
ステータスメッセージが画面上に表示された。それでも、私の心は落ち着かない。自分を守るためにブロックしたはずなのに、なんだか気になって「あ」のツイートを見てしまう。けれど、それ以上「あ」のツイートが更新されることはなかった。
まあ、こんな弱小VTuberにこれ以上粘着する理由なんてないか。そう思いながらもスマホでわざわざそいつのプロフィール欄を見に行って三回目、一つだけツイートが増えていた。
『なんかブロックされた笑』
何が面白いんだろう。ブロックされるようなことをしたのはそっちのくせに、笑ってんじゃねえと言いたくなった。というか、さっきまで配信で普通のコメントをしてたくせに、またアンチらしいことをして何がしたいんだ。それとも、これも普通の発言の一つだと思っているんだろうか。
もうこれ以上見たってしょうがない。こっちが気にすれば気にするほど、こいつが喜ぶだけだ。SNSの画面を閉じる。いっそアプリ消した方が手間をかけて傷つこうとしにいかないから良いのかもしれない。最近ほかの配信者さんがSNSを消したら精神が安定した、なんて話していた気がする。とにかく今は忘れること、気にしないことに集中しよう。
いつもより三十分程早くベッドに入る。SNSをいじらない方が睡眠時間だって増えるんだから、と自分に言い聞かせて目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます