VTuberをやめました。

阿良々木与太

月島ヨナの話

第1話 元アンチからのリプライ

『おはヨナ~!今日はお仕事!帰ってきたら雑談でもしよっかな

みんなも1日頑張ってね~』


 まだ布団にくるまったまま、慣れた手つきでそう打ち込む。朝一番に開いたSNSのページは真っ白で、寝起きの目には痛い。ツイートボタンを押すと、ぽつぽつと通知欄にいいねの反応が浮かんだ。


 アカウント名は「月島ヨナ」。いわゆるVTuberというやつで、丸いアイコンの中には黒髪をサイドテールにしたかわいらしい女の子が収まっている。これは私で、私じゃない。アイコンをタップすると、月島ヨナのプロフィール欄にとんだ。アイコンと名前の下に「人間界で働く悪魔」と書かれた文章と、配信サイトにアクセスできるURLが貼られている。自分で設定したものだけれど、いつ見ても簡素だ。もう少し書き加えようと何度も思ったが、これ以上自分について何を書いたらいいかわからず、この活動を始めてから数度微妙な調節を行いながらも結局この情報量の少なさにとどまっている。


 くあ、とあくびをしながらタイムラインをスクロールしているうちに、通知欄にリプライがきていた。さっきしたツイートをタップし、数スクロール分あるリプライを一つずつ読んでいく。


『ヨナちゃんおはよ~!お仕事頑張ってね!』


 一番上にあるリプライの送り主は「熊白ゆき」。月島ヨナをデザインした絵師と同じ絵師が彼女のデザインも担当している。いわゆる「姉妹」だ。ゆきのほうが先にデビューしていたから、私が妹ということになる。

 彼女は私のツイートによくいいねをくれるし、リプライも送ってくれる。裏では時々メッセージのやり取りもするくらい仲がいい。というより、彼女が優しいのだ。


『ゆき姉おはあり!がんばるわあ』


 彼女のリプライにいいねをつけたあと、そう返事をして画面を戻し、またスクロールをする。


『おはヨナ~』

『おはヨナ!雑談楽しみ』


 ファンからのリプライは素直にうれしい。いつも見るアイコンに感謝をしながら、いいねをつけたり、気まぐれに返したりする。前までは全部に返信していたけれど、朝から疲れてしまうのでやめた。

 リプライを一番下までスクロールした所で、私の口から思わずため息がこぼれる。グレーの初期アイコン、ユーザー名「山田」。


『おはヨナ!笑

もうゲームはやんないの?笑

雑談いけたらいくわ~』


 何の変哲もないこのアカウント、いや、SNS慣れしすぎた私にとっては初見でも不気味に感じるこいつは、月島ヨナの元アンチだ。

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