第2話 勇者、殴られる
「私は勇者の婚活のために呼び出されたの!?」
そんな理由で呼び出すなら乙女ゲームにしてよ!やったことないけど!
「す、すまない・・・」
「はぁ、意味わかんない」
「・・・すまない」
ぐうの音も出ない、といった様子だ。
「大体、嫁探しの前に魔王倒しなよ魔王。そもそもリコリスちゃん達はどこ?もしかしてまだ出会ってない感じ?」
「む?魔王はもう倒した。リコリスもヴィルマもひと月ほど前に故郷に帰ったぞ」
「・・・はい?」
百歩譲って私がブレファンの世界に召喚されたと認めた場合、私は少しだけ嬉しかった。目の前に勇者がいる以上私自身が勇者ポジションではなくても、原作にはないイレギュラーな勇者パーティとして活躍したり、もしかしたらもう一人の勇者として物語に組み込まれるかもしれないと思ったから。ゲームに限らずファンタジー作品が好きな人なら一度は考える「この作品の世界に入ってみたい」それが叶ったわけだから多少なりとも都合の良い展開を期待した。
自分が勇者の仲間として冒険が出来るのではないかと思っていた。
「もしかしてこれ、クリア後の世界?」
「クリア後?なんのことだ・・・」
私が召喚されたブレファンの世界は、魔王戦が終わって国民に平和な暮らしが戻ったクリア後の世界のようだ。ゲームで言うならエンドロールが流れているところ、ブレファンにはクリア後の世界を歩く要素がないから詳しいことは知らないけれどパーティが解散している理由にも納得がいく。だって冒険はもう終わっているんだもの。
「つまりこの世界はもう平和で、勇者なんて必要ないし、ましてや異世界人なんて全く期待されていないってことなのね」
「勇者がいらないほど平和だなんて良いことではないか。イブキは何をそんなに憤っているんだ?」
勇者は少しだけ悲しそうな顔をしているのに気付いた。そうか、私にとってはゲームでもこいつにとってはリアルの出来事、きっと想像もつかないような死闘と冒険を繰り広げて平和な今にたどり着いたんだろう。そんな人にこれ以上当たり散らすのはお門違いだ。
「ごめん、ちょっと期待が外れただけ。別に平和な世界が嫌なわけじゃないよ」
「そうか?それならいいんだが」
私の顔色をいちいち伺い、不安そうにしながらも常に私と眼を合わせようとする勇者。私がイメージしていたよりも鈍くて頼りない勇者はゲームの中の勇者デリックみたいに優しい目をしている。
「それでさ、その・・・さっきの話だけど」
「さっき?」
「だから、あのさ・・・」
「すまない、俺は他人の・・・特に女性の心を読み解くのは苦手なんだ。なるべくわかりやすく言ってほしい」
この駄勇者が、さっき自分は散々もごもごしていたくせに!
「わっ、私を嫁にするっていう話のことに決まってるでしょ!わざわざ異世界から呼び出すとか意味わかんないし、ちゃんと説明してよ。大体話が一方的すぎるって、確かに今彼氏とかいないけど私まだ17歳だから結婚とか考えて無いし、急に私と結婚したいだなんて言われても困るんだけど」
全く、なんでこっちが照れないといけないの。異世界から呼び出してプロポーズなんて、RPGの勇者のくせに乙女ゲームみたいなことしないでよ。そんな乙女ゲームあるのかどうか知らないけどさ!
「いや?別にイブキとは結婚したくないが」
「はぁ?」
私はその日、生まれて初めて本気で人を殴った。
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