第42話 遅めの春

 シバは笑いながらソファーにどかっと座った。

「うまかった、ご飯。ありがとうな。でもさ今日は泊められないって。それに明里には嫌いじゃないけど付き合う事はできませんってさ」

「フラれたってことね……」

 そう李仁がいうと一気にガクッと肩を落とすシバ。そしてすかさず床に土下座する。

「頼む、しばらく家にいさせてくれ! この通りだ!」

「どうしよう、李仁」

 湊音は土下座するシバを可哀想な目で見る。李仁は作戦失敗だと彼もがっかりしている。


「もう他に当てがここしかない。俺、明里が一番好きだった……子供たちも懐いてるし、こんなみじめな俺に対してしっかり人として対応してくれてて……」

「でも、少し前まで他の女の子の家にいたわよね」

「行くあてもない俺を捨てる女なんて最低だよ」

 シバはワンワンと泣き出した。湊音が背中を撫でている。

「ねぇ李仁、可哀想だよシバが」

「……ほんと情けない」

 すると誰かのスマホから着信があった。李仁のスマホである。


「明里だわ……」

 シバはそれを聞くと立ち上がって涙を拭く。李仁はスピーカーモードにしてみんなが聴けるようにした。


『李仁さん、こんばんは。今日はありがとう。美味しかったです。あ、湊音くんもいるかな』

「うん、いるわよ。それと……」


『シバくんもだよね……』

「明里!!!」


「ねぇ、明里ちゃん。シバのどこがだめだったの?」

『いや、ダメとかじゃなくてさ……そのさ、20代の頃だったら良かったと思うよ。頼もしくて明るくて……まぁ女にはだらしないけど』

 その言葉にシバはアチャーという顔をする。


『今はバツイチで子供二人いる……そんな私が好きです、すぐ付き合いましょう、同棲しますとはいかないの……シバくんには結構お世話になってて子供たちも懐いているけどさ』

「……明里。俺も子供たち……斗真、竜星好きだ。もちろん明里もだよ。フラフラして情けない男だが……今はもう明里だけだ。好きなのは」

 シバがスマホを取り上げて真剣に話し出した。


「なにこれ……シバ本気じゃん」

 湊音はその様子を見てぽろっとこぼした。


『ねぇ、ビデオモードにして』

「お、おう。李仁、これはどうするんだ?」

 李仁に聞いてスマホの通話モードからビデオ通話モードに変えた。

 どうやら今は明里一人のようだ。シバは真剣に画面に映る明里を見る。


「……まぁ身体の関係は一回あったけどさ、でもその関係だけでなくて、託児として雇われてる関係だけでもなくて、明里と共に暮らしていきたい」

『シバくん……』

「女にだらしない俺だけども……」

 明里とシバだけの会話に李仁と湊音は少し遠まきに見ている。


「あっちの家でやればいい話なのに」

「まぁ、李仁。見守っていようよ」

 李仁はおもしろくないようだ。


『……別に嫌いって言ったわけじゃないし、フったつもりもないから』

「えっ、俺はフられてないの?!」

『そうよ。でもまだ同棲とかは先の話だけどさ』

「いや、住むところなくて困ってて……」

『だからといってすぐ同棲ないから』

「そ、そんなぁー」

『李仁さんと湊音くんのお家に居させてもらったら?』

 シバは李仁と湊音たちの方を見る。二人は見つめあった。


「まぁしょうがないわね。明里さんと付き合うまで」

「……そうだね。李仁がいいって言うなら」


 シバはよっしゃとガッツポーズをして飛び跳ねる。明里と少し話をし、終わらせて李仁にスマホを返した。


「いやー、早とちりだったわ〜明里は俺と付き合うけど、少しずつ距離縮めていく感じ……なんかこんな恋愛、新鮮だなぁーってことで……」

「ことで?!」

 と李仁と湊音は同時に声が出た。


「しばらくはよろしくお願いしまーす!」

 シバは二人に頭を下げた。


「はいはい、よろしくね」

「よろしくね」


 ということで男3人の同居生活が始まった。

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